鈴鹿を熱狂の渦に包み込んだ可夢偉 自己最高7番手から母国GP決勝を駆ける=F1

田口朋典

PPを獲得したベッテル。連覇に向けて不安要素は見当たらない 【Getty Images】

 10月8日、鈴鹿サーキットは引き続き好天に恵まれた。気温23度、路面温度36度という絶好のコンディションの中、F1世界選手権第15戦日本GPの公式予選が行われ、レッドブルのセバスチャン・ベッテルが今季12回目のポールポジションを獲得。ジェンソン・バトン、ルイス・ハミルトンのマクラーレン勢がベッテルに続く2、3番手につけた。
 また、日本期待の小林可夢偉(ザウバー)は見事Q3に進出、予選結果としては10番手ながら、可夢偉を含め4台のマシンがタイム計測をしなかった結果、9日の決勝を自己最高となる7番グリッドからスタートする可能性が浮上することとなった。

ベッテル、年間タイトル連覇へ好発進

 3回のフリー走行すべてでトップタイムを奪っていたバトンが、Q3のラストアタックで1分30秒475をマークも、それを1000分の9秒上回る1分30秒466を刻んだのは、あとわずか1ポイントで連覇のときを迎えるベッテルだった。

 「素晴らしい予選になったね。昨日はセットアップに苦労していたし、フリー走行1ではクラッシュしてフロントウイングを失ってしまった。けれどチームが本当に良い仕事をしてくれたおかげで予選には良いセットアップで臨めたし、Q3では最初のラップでいけると感じたよ。ルイスが先に良いタイムを出していたけれど、上手く行けば30秒5くらいは出るだろうと思っていた。アタックラップではセクター1で少し攻め過ぎて多少ロスがあったんだけれど、逆にセクター2ではすごくうまく行った。フィニッシュラインを過ぎてから、無線で1000分の9秒差で(ポールポジションを)獲ったと聞いた時は本当にうれしかったよ!」とこれで5戦連続となるポールポジション会見に臨んだベッテルは語った。
「明日の決勝は普段通りのレースをするつもりだよ。ポールポジションからスタートできるわけだし、もちろん楽しみではあるけれど、とにかくいつも通りアグレッシブなレースをすること、ひとつでも上の順位でフィニッシュすることを目指すよ」と、平常心をアピールするも、最高のグリッドからタイトル連覇に向けたスタートを切ることとなった。

可夢偉、運も味方につけて7番手グリッド

 しかし、この日最もスタンドを沸かせたのは、やはり可夢偉だった。

 Q1ではソフトタイヤを装着したこともあり、1分32秒626でトップ通過を果たすと、さらにQ2では1分32秒380で10番手に生き残り、見事第9戦イギリスGP以来となる、6戦ぶりのQ3進出を果たした。Q3ではミディアムタイヤを履き、セッション開始と同時にコースインするも、計測ラップを刻むことなくピットへ。そのままタイム計測せずチェッカーを迎え、予選結果は10番手となった。
 ここでまずQ3でベストタイムをマークしたタイヤで決勝をスタートしなければならないという“足かせ”を逃れたが、終了後にはさらなるミラクルが待っていた。正式なグリッド表は9日にならなければ発表されないが、8日19時5分に発表された暫定グリッド表の段階では、可夢偉は7番グリッドからスタートするとなっているのだ。

 2名以上のドライバーがタイムを出せなかった場合のグリッドは、FIAのスポーティングレギュレーションでは、以下のように決定されることとなっている。

 Q1、Q2、またはQ3で2名以上のドライバーがタイムを出せなかった場合、そのドライバーは以下の順に整列される:

1)計測周回に出走し、予選タイムを達成することを試みたドライバー
2)計測周回に出走できなかったドライバー
3)ピリオドの間にピットを出ることができなかったドライバー

 2名以上のドライバーが上記のひとつのカテゴリーに当てはまる場合のグリッド配列は、当該ドライバーのカーナンバー順とする。

 このレギュレーションが適用された結果、Q3で早々にコースインし、タイム計測こそしなかったものの、ピットで待機する形となっていた可夢偉は上記「1)計測周回に出走し、予選タイムを達成することを試みたドライバー」に該当するとみられ、セッション終了間際にピットアウトし、同様にタイム計測を行わなかったミハエル・シューマッハ(メルセデスGP)やロータス・ルノーGPの2台よりも前、すなわち7番グリッドから決勝をスタートするというわけだ。

 「まだ決まってませんよね? でもそうなったら奇跡ですね。かなり裏の技を使ったチームに感謝しないと」と自己最高の7番手スタートとなる可夢偉。「Q1ではトップチームがプライム(ソフト)タイヤを使っていないんで、(トップ通過は)その結果だと思いますが、自分としてはずっとプラクティスでクルマが良くなくて。実際にはFP2(フリー走行2回目)は結構良かったものの、FP3(フリー走行3回目)でもうちょっといじったら悪くなったので、予選に向けてはクルマをFP2に戻した感じでした。良いと思われる部分だけを残してセッティングして行った結果、予選は今週で一番良いんじゃないかという状態で走れたことが一番大きかった。Q1でタイムが良く、これならF・インディアの前に出られるかもしれないという感触を得たので、後は自分がとにかく集中してQ2でラップをまとめるだけでした」とこの日の予選を振り返った。

過去最高のレースを見せられるか

記者の質問に答える可夢偉、自己最高位からのスタートで鈴鹿を盛り上げる 【田口朋典】

「もうちょっと無理して走ってもクルマが耐えてくれるようなものが作れれば良いんですが……。まだ一本橋の上を走っているようなクルマなので、そこはもうちょっと頑張らないと。ただ母国GPって大概みんなダメなことが多くて、僕も昨日まではダメかなと思っていたんですけど、何とかなりそうな気がして来ました」と、決勝に向けてこなすべきことは多いとしながらも、モチベーションはさらに増しているようだ。「スタートが前過ぎるんで、(去年のような)追い抜きはないかもしれませんよ。(7番手スタートとなれば)それ以上上と言っても、レッドブルとマクラーレン、フェラーリしかいませんから、それは無理ですね(笑)」と、最後にはいつもの彼らしい軽妙な語り口も飛び出した。

 昨年は予選14番手から7位入賞を飾った可夢偉。まだ最終決定ではないものの、7番手スタートとなれば、それを上回る好リザルトを期待してしまうのは必定。ベッテルのタイトル決定劇とともに、明日は可夢偉が過去最高のレースを見せてくれるかもしれない。いや、少なくともそのお膳立てはこれ以上ないほどに整った、といえるだろう。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。大学卒業後、趣味で始めたレーシングカートにハマり、気がつけば「レーシングオン」誌を発行していたニューズ出版に転職。隔週刊時代のレーシングオン誌編集部時代にF1、ル・マン、各種ツーリングカーやフォーミュラレースを精力的に取材。2002年からはフリーとなり、国内外の4輪モータースポーツを眺めつつ、現在はレーシングオン誌、オートスポーツ誌、CG誌等に執筆中。自身のブログ“From the Paddock”(スポーツナビ+ブログで)では、モータースポーツ界の裏話などを披露している

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