濃くなるカペッロ懐疑論と有望株への期待=東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

一向に晴れない「大丈夫か?」ムード

W杯・南アフリカ大会以来、カペッロ監督に対するファンの不安は大きくなる一方のようだ 【Getty Images】

 勝負の世界に絶対的保証などあり得ないからか、それとも、過去何年もの間「不安」と背中合わせの印象がつきまとってきたからなのか、欧州選手権(ユーロ)予選グループ最終戦を控えたイングランドには、この期に及んでも、どんよりとした曇り空のような慎重論が絶えない。

 状況から見て、グループ首位通過(=本大会出場決定)は堅い。ライバルのモンテネグロは残る2試合の連勝が最低条件だ。敗れようものなら、アウエーで最終戦を戦うスイスにうっちゃられてプレーオフの権利さえ失いかねない。つまり、文字通りの背水の陣。公平に見て、実力上位のイングランドは“堂々と”敵地ポドゴリーツァ(モンテネグロ共和国の首都)で余裕をもって引き分け狙いにいけば良い。

 にもかかわらず、一向に晴れない「大丈夫か?」ムードはなぜか。理由はほぼ分かっている。2010年夏(ワールドカップ・南アフリカ大会)以来、濃くなる一方のファビオ・カペッロ懐疑論だ。いや、懐疑論という表現は生易しい。多くのイングランドファンに言わせれば「何も分かっちゃいない」。イングランド代表の何たるかを、イングランド代表としてプレーするプレーヤーたちの精神、気質、気構えを「理解できていない」という。

 今回のモンテネグロ戦に選抜したメンバーからして、疑問と批判のオンパレードだ。一例を挙げると、どうして「イングランド人史上最高額移籍の看板倒れ」のアンディー・キャロル(リヴァプール)、「30歳でまだ代表公式戦出場ゼロ」のボビー・ザモーラ(フルアム)を招集したのか――日ごろから「クラブでレギュラーを張り、かつ好調なこと」を優先すると公言しているのなら、どうしてジャーメイン・デフォー(トテナム)を見送り、復活して絶好調のアンディー・ジョンソン(フルアム)を加えないのか――。

カペッロ体制の不安の源泉

 彼らの意見を総合するまでもなく、振り返ってみればカペッロの起用ポリシーは確かにつかみどころがなく、一貫性にも乏しい。善しあしは別にして、戦術的な工夫の跡もうかがえず、そもそも、どんなフットボールをしたいのかも定かでない。要は、今さらながら、カペッロ体制になって「歴然と変わったこと」「向上した要素」を見つけようにも何ひとつ明確に思い出せないことに、誰もがはたと気がついているのである。

 今や、巷間(こうかん)では「あれ? カペッロってまだ(代表監督を)やってたのか?」が定番の“本音ジョーク”になっているが、最近は口を開けば「ユーロ本大会終了後に辞任する決意に変わりはない」とのたまうしかない素っ気なさと味気なさも失笑を買うばかり。つまり、こんなやる気のない無策の指揮官に委ねている限り、どんな“どんでん返し”が起きても不思議じゃない――というのが、不安の源泉になっているわけだ。

 不運と思しい誤算もあった。失意の南アフリカからの帰還後から、ほとんど唐突に「新司令塔候補」として名指ししたジャック・ウィルシャー(アーセナル)が、なし崩しにいつしか故障でダウン。そもそも「思い切った若返り策」自体が、FA(イングランド協会)の強化担当責任者トレヴァー・ブルッキングの“指導”によるものだから、ウィルシャーうんぬんそのものが静かなる迷走の始まりだったと言えなくもない。

 そのあたりからカペッロの求心力は悲しいほどに希薄になり、それこそ監督という地位に「いるだけ」の存在になり果てていたようだ。カペッロのファーストネームにちなんだ愛称「Fab」は、かの「Fab4」(ビートルズの愛称)にも通じる“尊称”でもあったはず。それがもはや皮肉の象徴にしか聞こえないとは、何とも物悲しい。

 とは言っても、ポーランドとウクライナ(ユーロ本大会の開催地)での“スリーライオンズ”は、紛れもなく「Fab」の指揮で「Fabulous」(すばらしい、素敵な)な感動と成果を目指すのだ。まだ気が早いレベルの話になってしまうが、ちまたの印象を「惜しまれつつの勇退」に力ずくで変えてしまうくらいの意地を見せてほしいものである。勝ち負けをあえて度外視してでも。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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