西武・大石、先発転向に奮闘した1年目=最多6球団から指名された逸材の2011年

中島大輔

ライバルたちが活躍する一方で……

先発に転向し、来季の飛躍が期待される西武・大石 【写真は共同】

「豊作」と言われた2010年ドラフト組が、両リーグで熾烈な新人王争いを繰り広げている。パ・リーグでは北海道日本ハムの斎藤佑樹、東北楽天の塩見貴洋、埼玉西武の牧田和久を抑え、打率2割7分6厘、28盗塁を記録している千葉ロッテの伊志嶺翔大が一歩リードか(成績は10月4日時点。以下同)。セ・リーグでは巨人の澤村拓一がチーム2位の9勝、リーグ2位の157奪三振の成績で、最有力候補と見られる。

 即戦力ルーキーが1年目から華々しい舞台で活躍する一方、10年ドラフト1位で最多の6球団から指名された逸材は、スポットライトとは無縁の世界でシーズンを終えようとしている。9月28日、埼玉西武の大石達也が登板した試合はイースタンリーグの今季最終戦、北海道日本ハム戦だった。

「今日は完投しろよ。125球はいけるだろ?」
 橋本武広ファーム投手コーチからそう叱咤された大石は、指令通りに9回を投げ抜いた。130球を投げて被安打、奪三振ともに6。試合が延長戦にもつれ込んだため「完投」の記録はつかなかったものの、プロで初めて9回を投げた。

 だが、大石の表情は曇っていた。
「今日はあんまり納得がいきません。良くなかった」
 6回、先頭打者の谷口雄也にストレートの四球を出した後、捕手の岳野竜也がマウンドに行く場面があった。
「大石の真っすぐは伸びがあるから、高めの球を使っていきたい。でも、高めを使いづらそうに感じたので、その確認に行きました」
 大石は他の点で違和感を覚えていた。
「左バッターへのアウトコースのボールが全部シュート回転して、ボールになっていました。だから、真ん中より内側でとお願いしました」

大学時代から10キロ以上も減速

 大石の良さについて、渡辺久信監督は春季キャンプでこう話していた。
「ピッチャーの基本になる、ストレートの強さを持っている。スピンが効いたストレートで、バッターの手元で伸びてくる。良いところはいろいろあるけど、まずはフォームが安定しているよね。下半身をうまく使って投げているなって。でも、うまく使っている分、球数が増えてくると疲れが出てくる。まだ、そんなに多くは投げられないなという感じで見ている」

 9月28日に行われた北海道日本ハム戦の最速は142キロ。指に掛かったときのストレートはキレがあり、空振りを奪うシーンは何度もあったが、大学時代に最速155キロの豪速球を投げていた姿からはほど遠かった。

 なぜ、大石のストレートは10キロ以上も減速してしまったのか。
 ひとつの理由として、先発転向が挙げられる。長いイニングを放るため、より下半身を使ったフォームで投げることを意識した結果、バランスを崩した。春先から「投球フォームが納得いかない」と、何度もこぼした。
 大石はもともと、スタミナ不足を指摘されていた。長距離走が苦手で、1月の新人合同自主トレでは埼玉西武の練習量の多さに圧倒されていた。先発としての体力が足りず、試合中にフォームを乱すこともあった。

 大石の癖について、渡辺久信監督は春季キャンプでこんな指摘をしている。
「疲れてくると、どうしても上体に頼っちゃっている。下に疲れがたまってうまく使えていない分、ボールもあんまり来てなくて。来てないから力んで、上体で投げてボールも引っ掛かり気味になる」

 大石は上半身の力が強い投手だ。下半身を上手く使えたとき、全身の力が結集され、球威のあるスピードボールが投げ込まれる。しかし、大学時代のクローザーから先発に役割が変わり、微妙に投げ方が変わったことで、投球バランスを崩した。

大石に期待される「将来性」

 表情が曇ったままだった9月28日の試合後、大石はわずかな手応えも口にしている。
「9回を投げられたのはまずまずです。入った当初よりは確実にスタミナがついていると思います」
 ファームで1年間鍛え、先発として投げ込んだ結果、最終戦のころには完投できる体力がついた。捕手の岳野も、「夏に比べて球速も出るようになったし、球の力自体も上がってきています」と進歩を認めている。

 完成度の高い斎藤佑樹や澤村拓一と、大石は異なる。指名理由について、渡辺監督はこう話していた。
「将来性がすごくあるピッチャーだと思う。1、2年かけて、先発ピッチャーとして投げられるように。当然、6球団が競合して獲ったピッチャーだから、各球団のプロの目で見て『この子はいける』という感じで指名している。10年以上、ローテーションを守れるように。まだ若いからね」

 プロで先発として1年を過ごし、確実にスタミナはついた。今後の課題は、「フォームを自分のものにすること」だ。
 渡辺監督が「周囲に左右されず、マイペースなところがある」という“未完の大器”。「フォームはだいぶできてきたから、このまま続けていきたい」。先発転向2年目の来季、飛躍を見据えている。

<了>
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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