日本はなぜ「現在のWBC」に出場できないのか!?=選手会顧問弁護士が語るWBCの実態

中島大輔

サッカーW杯、五輪と違う「極めていびつ」な構造

2連覇を達成し、笑顔を見せる日本代表。第3回大会に参加し、3連覇を目指すことはできるのか 【写真は共同】

 2013年に予定されている第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)について、日本は代表チームのスポンサー権、グッズの収益権が認められない場合、出場を見送るとしている。
 WBCはサッカーのワールドカップ(W杯)やオリンピックと比べ、大会構造が極めていびつだ。例えばサッカーのW杯は国際サッカー連盟(FIFA)が主催しているのに対し、WBCはメジャーリーグ(MLB)とその選手会が主催している。FIFAが各出場国に代表スポンサー権、代表グッズの商品化権を認めている一方、WBCではそれらを主催者側に帰属させている。09年の第2回大会でアサヒビールや日本マクドナルドが日本代表を応援する立場を取ったが、彼らのスポンサー料はすべてWBC主催者に流れた。

 MLBとその選手会は第1回大会を開催するにあたり、共同出資で「WBC INC」(WBCI)という法人組織を設立した。放映権やチケット販売、スポンサー権まで、すべての権利を独占する仕組みを作ったのだ。
 09年大会の収益は約1800万ドル(金額確定した10年秋のレートで約15億円)で、分配率はMLBとその選手会がそれぞれ33%(合計で約10億円)だったのに対し、日本は13%(約2億円)。各国を招待する立場のWBCIは正当な分配率としているが、日本のスポンサーから約9億円の収入があったことを考えれば、とても正当な分配率とは言えない。日本プロ野球選手会はスポンサー収入における日本代表関連の割合は半分以上になると見ており、日本代表のスポンサー権やグッズの収益権が認められない限り、第3回大会に出場しないとしている。

 そもそも第1回大会に参加するか否かについて、日本プロ野球機構(NPB)には返答を迷った経緯がある。MLBが圧倒的に有利となっているWBCの収益分配構造を考えれば当然のことだが、MLBは「開催にはリスクもある。マイナスが出たら、われわれが補填(ほてん)する」とし、NPBはスポンサー権などの権利を明け渡したまま参加を決めてしまった。

MLBの主張とその矛盾

 しかし、プロ野球選手会の顧問弁護士を務める石渡進介氏は、「MLBはリスクなど取っていない」と主張する。
「当初の収支構造を分析すると分かります。WBCの収益には本大会で得られたものと、日本経由のものがあります。全体売上が約8700万ドル(約72億円)ある中で、日本経由のものは少なくとも3300万ドル(約28億円)以上あります。東京ラウンドは読売新聞社が興行権を買って行われましたし、アジア向けの放映権やスポンサーシップは電通が一括で売りました。スポンサーシップは全体で1800万ドル(約15億円)ですが、1300万ドル(約11億円)が電通によるものです。MLBは『リスクを取ってWBCを開催している』と言うんですが、損益分岐をベースに考えれば、大会のリスクを取ったのは実際には読売と電通なんです」

 WBCはMLBによって主催されるため、必然的にスポンサーの顔ぶれも限定される。石渡氏が続ける。
「メジャーリーグ30球団のオーナーがWBCの開催を了解しなければ、大会はできません。彼らは当然、MLBのリーグビジネスを考えます。球団はそれぞれにスポンサーを持っているので、例えば『バドワイザーはうちのスポンサーだから、WBCは手を出すな』となり得るわけです。
 なぜ、スポンサー収入の比率が日本をベースとする電通に大きく依存しているのでしょうか。アメリカで大々的なスポンサーマーケティングをやるな、というのが前提にあるのではと思わざるを得ません。アジアなど、MLBの試合と直接関係ないところのお金を吸い上げているだけなんです。でも日本代表の価値って、MLBが作ったんですか? そんなわけがなく、少年野球、高校野球から始まって、アマチュアとプロの集大成として価値を作っているんです。日本の野球が発展してくる中で作った価値を、MLBに持っていかれるのは到底納得できない。彼らはリスクを取っていると言うけど、取っているのはリスクじゃなくて日本のお金です」

 選手会の試算によると、WBCIが日本代表にスポンサー権、グッズの収益権を認めて第3回大会が開催されたとしても、黒字になる見込みと言う。しかし、それでもWBCIが日本代表ライツに固執するのは、日本代表に絡んだスポンサー収入、グッズ収益といううまみを吸い取るためだ。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント