日本GPを前に暗雲漂う可夢偉とザウバー=F1 4戦連続ノーポイントに揺らぐチームとの信頼関係

田口朋典

事実上今季は終わり

圧倒的な強さでシンガポールGPを制したベッテル。連覇は日本GPで決まりそうだ 【Getty Images】

 まさに完勝―――。9月25日にナイトレースとして開催されたF1世界選手権第14戦シンガポールGPで、レッドブルのセバスチャン・ベッテルは、他を寄せ付けない走りでポール・トゥ・ウイン。今季9勝目を達成した。ランキング2位のジェンソン・バトン(マクラーレン)が2位に入ったために、わずか1ポイント届かず、シンガポールでの戴冠こそならなかった。
 ただ、2週間後に控えた日本GPで10位以内に入賞さえすれば、タイトル防衛を果たすという状況に持ち込むことには成功。連覇に向けたカウントダウンは“1”となった。

 今季序盤から圧倒的な強さで突進を続け、284ものポイントを積み重ねてきたベッテルは、タイトル獲得の可能性を持ってシンガポールに臨んだ。フリー走行では1回目にルイス・ハミルトン(マクラーレン)、3回目にはレッドブルの僚友マーク・ウェバーにトップタイムを譲りながらも、予選ではきっちりとポールポジションを獲得。決勝でもスタートから2番手バトンを引き離し、他を圧倒した。
 ミハエル・シューマッハ(メルセデスGP)の事故で生じたセーフティカーのリスタートでも、2番手バトンとの間にバックマーカー(※周回遅れのドライバー)がいたこともあって、難なく首位をキープしたベッテル。今回のレースで唯一危うかったシーンといえば、50周目の最後のピットインを終えたピットレーンで、目前にピットアウトして来たヤルノ・トゥルーリ(チーム・ロータス)と交錯しそうになったことくらいではなかっただろうか。
 終盤に見せたバトンの猛烈な追い上げはすばらしかったが、すでにレースコントロールに入っていたベッテルにとっては、さほどの驚異とはならなかっただろう。

 序盤でフェリペ・マッサ(フェラーリ)のリアタイヤに接触し、フロントウイングにダメージを受けて後退したハミルトンの自滅や、タイヤマネージメントを強いられるフェラーリを駆るアロンソの苦闘ぶりは、完ぺきなレース運びを見せるベッテルの仕事ぶりとはあまりにも対照的。事実上今季は終わったという印象を禁じ得なかった。来る鈴鹿での日本GPが消化試合とならなかったことだけが、われわれ日本のモータースポーツファンにとっては幸いであったというしかない。

可夢偉とザウバーの微妙な関係

予選でのクラッシュ、決勝でのペナルティーと踏んだり蹴ったりの週末となった可夢偉 【Getty Images】

 こうしてシリーズの大勢が決定的となっただけに、鈴鹿で期待を一身に集めるだろう小林可夢偉(ザウバー)の走りに注目していたのだが、残念ながらこのシンガポールでもシーズン序盤のような勢いは見られなかった。予選で縁石に乗り過ぎてジャンプ、痛恨のクラッシュを演じたこともあるが、それよりも気掛かりなのは可夢偉とチームとの関係だ。
 17番手からのスタートながら、ポイント獲得への強い自信をのぞかせていた可夢偉だったが、セーフティカー出動時にステイアウト(※ピットに入らずコースにとどまること)せずにピットイン。
 結果的にこのチームの判断が裏目に出た。大きなタイムロスとなったうえに、終盤には青旗(※周回遅れとなる車両に対し、後続の車両を先に行かせるようにふる旗。旗を振られたドライバーは、進路を譲らなければならない)の提示に気づかず、ドライブスルーペナルティーを受けてしまい、2周遅れの14位でフィニッシュとなった。

 「鈴鹿につながるレースをしたかったが、戦略ミスが響いた……」とくやしさを語った可夢偉。レース後、ザウバーのエンジニアリング部門を統括するジャンパオロ・ダラーラが、ポイントを獲得したセルジオ・ペレスの健闘をたたえる一方で、チームの戦略ミスを認めながらも「それがなかったとしても、今夜の可夢偉にはポイント獲得は難しかっただろう」と語ったと伝えられるなど、チーム内の微妙な雰囲気をうかがわせた。

 このところチーム戦略で後手に回ることが多いザウバー首脳陣と、それにもどかしさを感じているであろう可夢偉。その両者に不協和音とは言わないまでも、少なくともある種のフラストレーションに近い感情があることは間違いないだろう。

 ここまで一度のリタイアもなく、全戦でポイントを獲得し続けているベッテルだけに、2週間後の鈴鹿では、間違いなく連覇を決めるはずだ。しかし、鈴鹿に足を運ぶ多くの日本のファンにとって欠かせないのが、昨年のような可夢偉の熱い走り。ここ数戦の悪い流れを覆す戦いを、日本GPでの可夢偉には期待したい。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。大学卒業後、趣味で始めたレーシングカートにハマり、気がつけば「レーシングオン」誌を発行していたニューズ出版に転職。隔週刊時代のレーシングオン誌編集部時代にF1、ル・マン、各種ツーリングカーやフォーミュラレースを精力的に取材。2002年からはフリーとなり、国内外の4輪モータースポーツを眺めつつ、現在はレーシングオン誌、オートスポーツ誌、CG誌等に執筆中。自身のブログ“From the Paddock”(スポーツナビ+ブログで)では、モータースポーツ界の裏話などを披露している

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