ジョコビッチ「生涯最高の一撃だった」=コメントで振り返る全米オープンテニス・男子編

内田暁

今季絶好調のジョコビッチをフェデラーもナダルも止めることができなかった 【Getty Images】

 9月12日(現地時間)まで米ニューヨークで行われていた、全米オープン。荒れる天候とは裏腹に、男子シングルスでは第1シードから第4シードまでのトップ選手が順当にベスト4に顔をそろえた。

 分けても最大の焦点は、今シーズンわずか2敗しか喫していないノバック・ジョコビッチ(セルビア)を、誰が止めるのか……であった。

 準決勝で対戦したロジャー・フェデラー(スイス)は、ジョコビッチから2セットを奪い、この命題達成までわずか1ポイントのところまで迫った唯一の選手である。だが、ここでジョコビッチが放った、目の覚める様なフォアのリターンウィナーが、すべてを180度反転させてしまう。

 絶体絶命の危機を脱したジョコビッチはフェデラーを下し、そしてラファエル・ナダル(スペイン)との1位対2位対決へとコマを進めたのだった。

準決勝後、フェデラーはうんざり「勘弁してくれよ」

ナダルを相手に強さを見せつけ、全米初優勝を飾ったジョコビッチ 【Getty Images】

「打った状況や相手を考えれば、生涯最高の一撃だった」ジョコビッチ
 相手のマッチポイントで放った、起死回生のリターンウィナーについて。

「自信だって? 冗談で言ってるのかい? 勘弁してくれよ」フェデラー
 例のジョコビッチのウィナーについて、「あのようなショットが打てるのは、自信があるからだろうか?」と聞かれ、うんざりしたような表情で応じるフェデラー。「ジュニアの頃から、追い詰められると開き直ったように打ち始める選手は居た。結局は、どういう風に育ってきたかの問題だろう」というのが、フェデラーの分析。つまりは、一本のショットも一朝一夕で生まれるものではないというのが、彼の理論だ。

「明日の試合の戦術? サーブ&ボレーでもやろうかな?(笑)」ナダル
 5連敗中のジョコビッチとの決勝対決を控えた、会見でのこと。ジョコビッチに勝つために、どんな戦術を選ぶかと聞かれたナダルは、冗談めかしてこう言うと、表情を引き締め「僕がやるべきことは分かっている。自分のテニスを貫くこと。ただし、とても高いレベルでね」と続けた。

「負けた言い訳を探す場じゃない」と敗戦のナダル

 迎えた決勝戦は、両者ともに信じがたいコートカバー能力を発揮し、攻守一体となったストロークでの壮絶な打ち合いとなった。だが、互角に見える一進一退の展開の中で、小さな、だがこのレベルの実力者同士の戦いでは決定的な差を生んだのが、サーブとリターン力。今大会のナダルはサーブがやや低調だったが、その小さなほころびに、リターンに絶対的な自信を持つジョコビッチがかみ付く。リターンゲームで積極的に攻め、なおかつ4時間10分にもおよぶ長丁場で最後までパフォーマンスを落とさなかったジョコビッチが、今季3つめのグランドスラムタイトルを手にした。

「ここは、負けた言い訳を探す場じゃない(笑)。試合について語ろうよ」ナダル
 試合後の会見の冒頭で、「試合終盤は疲れていたか?」「相手がメディカルタイムアウトを取ったことで、リズムを失ったのでは?」など立てつづけに敗因を求める質問を受けたナダルは、哀切を帯びた笑顔を浮かべてそれらの問いをかわし、自ら試合の内容につき話し始めた。

「昨晩は何を食べたかって? その問いに対する答えは、シンプルだ。僕は昨晩、一切グルテンを取らなかった。そして今晩は、思いっきりグルテンを食べるよ! それにアルコールもね!」ジョコビッチ
 以前は試合途中の棄権が多いなど、体力面に不安を抱えていたジョコビッチ。それが今シーズンでは、無尽蔵のスタミナと集中力を誇る選手へと生まれ変わっていた。その裏には、検査の結果グルテンアレルギーであることが判明したため、グルテンを多く含む食品を断つという食事療法の実践があった。

「もちろん、それ(キャリアグランドスラム達成)が次の目標だよ。まだまだ僕自身、テニス界に証明すべきことが山ほどある。僕はもっとトロフィーが欲しいし、もっとグランドスラムで勝ちたいと思っている。テニスとは、朝起きて頑張って……というような日常習慣ではない。僕はこの競技が好きで、だからこそ前に進むことができる。そして勝利の喜びがあるからこそ、次のトロフィーのために戦えるんだ。
 全仏オープンのタイトルを手に入れたら、どんなに素晴らしいことかと思う。もちろんすぐに達成できることではないだろうけれど、それが今の僕の渇望だ」ジョコビッチ

 全豪、全英(ウィンブルドン)、全米と、四大大会のうち3つをすでに獲得し、残るは全仏のタイトルのみとなったジョコビッチ。コレクションに欠けた唯一の空間を埋めることが、現在の最大のモチベーションだと公言。

<了>
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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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