清武弘嗣、紆余曲折を経てブレークしたテクニシャン=ザックジャパン新世代の象徴として
A代表定着へ踏み出した一歩
清武(左)は若手の1人として今後、日本代表の重要な戦力となることが期待される 【Getty Images】
にもかかわらず、指揮官のお眼鏡にかない、韓国戦で国際Aマッチデビュー。見事なパス出しで本田圭佑と香川真司のゴールをお膳立てするとは、多くの人の予想を超える出来事だった。試合中に内田篤人が「清武君のプレースタイルが分かんないんだけど」と尋ねるほど、周囲との連係構築の時間もなかった。だが、即興で息を合わせてしまうあたりが、清武の能力の高さなのである。
迎えた今回の北朝鮮戦。フレンドリーマッチと、14年W杯・ブラジル大会出場の懸かる予選とは、試合の意味合いが全く違う。10代のころの繊細すぎる清武だったら、プレッシャーに押しつぶされたに違いない。しかし、伸び悩みやけが、プレー環境の変化など紆余(うよ)曲折を経て、じっくりと自信を養いながら20代を迎えた男に動揺はなかった。8月29日から始まった埼玉合宿でも「今回は2回目なんでリラックスしています」と平常心を強調。本番の佳境でピッチに送り出されても落ち着き払っていた。予選特有の独特なムードは感じ取ったとはいうものの、清武らしい積極性と高い技術が失われることはなかった。
吉田のゴールにつながった時間帯はスタジアム中が騒然となっていたが、清武は新庄総監督から太鼓判を押された“頭抜けた集中力”で、戦況をしっかり見極めた。
「前半からショートコーナーが利いていましたし、それを意識してハセさん(長谷部)が寄って来てくれたんで、自分のコーナーキックは少しボールが強いかなと思ったけど、うまく戻ってきた。その時、密集の中に放り込んだら何かが起きると思って中に蹴りました」
吉田のゴールが生まれ、選手たちがもみくちゃになって喜び合うシーンを清武は少し離れた場所から眺めることになった。「自分もホントは喜びたかったんですけど、遠かったんで(苦笑)。残り時間もありましたし、決めた後はしっかり締めないといけないと思いました」と冷静さを忘れなかった。
“大舞台での落ち着きと集中力”を培った原点
平成生まれのJリーグアカデミー出身者ではあるが、どこか昭和の泥臭さを感じさせる清武。この先もまだまだ伸びしろがありそうだ。彼が今後、日本代表の重要な戦力になっていくのは間違いないだろう。
次なる戦いは目前に迫っている。6日のウズベキスタン戦(タシケント)はスタメンの可能性も高い。北朝鮮戦でトップ下に入った柏木が思ったより機能しなかったため、後半途中からの「清武・香川・岡崎」という2列目を、指揮官が頭から採用することが大いに考えられるからだ。遠藤保仁や長谷部誠ら年長者の主力たちも強行日程で疲れているだけに、中3日の敵地での決戦は、若い力がカバーするしかない。
「ウズベキスタンのことは全然分からないですけど、しっかり体力を回復させることが第一ですね」と清武は淡々と言う。今の彼なら先発でも十分やれるはずだ。90分という長い時間を与えられるなら、今度こそ、本人も言い続けている“ゴール”という結果をしっかりと残さなければならない。果たして、タシケントで清武のA代表初ゴールは見られるのか。背番号11の決定力が、ザックジャパンの命運を大きく左右しそうだ。
<了>