1部復帰を目指すリーベルに図られる数々の便宜

頓挫した新リーグ構想

 処分が先送りになっているだけではない。今オフ、リーベルはチーム最高の選手の1人であるエリック・ラメラをローマに放出した一方、彼の売却で得た移籍金1200万ユーロ(約13億4000万円)を使って、開幕が迫る2部リーグを意識した補強を行い始めていた。その傍らで、AFAは何と1部リーグと2部リーグを1つにまとめ、38チームによる新たなリーグを作るという突拍子もないアイデアを考案したのだ。

 しかし、そんな大規模な改革を実行するための準備期間はほとんどなく、少ない予算と小さなスタジアムでやり繰りしている大半の中小クラブにとって、多くの移動経費などが発生する新リーグに対応するのは実質的に不可能だった。加えて、1部リーグの全試合を放送している国営放送が毎週19試合を無料放送しなければならないという問題も浮上した。

 これらの動きはすべて、8月14日に行われたアルゼンチン大統領選挙の予備選が絡んでいた。リーベルには多数の投票を動かす影響力があるからだ。だが結局、リーベルを降格から救うための手段として即席で考案された新リーグ構想は、即座に多くのファンの反対を受けることになる。

 79歳にして10月の会長選挙で8度目の当選を果たそうとしているAFAのフリオ・グロンドーナ会長は、リーベルを救うための新リーグ構想が大衆の同意を全く得られていないことに気付いた。彼はこの構想に対して人々が抗議運動を行い始めたのを受け、最後の最後で考えを改め、すべてを元のままにすることを決めたのだった。

 保留のままとなっている処分については、通常ならばAFAはリーベルの全ホームゲームをほかのスタジアムでの無観客開催とした上、過去にヌエバ・チカゴやアルミランテ・ブラウンに対して科したように勝ち点を減点するべきである。

あまりにも大きいリーベルの影響力

 しかしながら、リーベルの持つ組織的、メディア的な影響力、そして投票にもたらす影響力はあまりにも大きい。そのため、ナシオナルBが開幕した時点ではスタジアムの閉鎖が決められておらず、開幕戦のリーベルはなじみのホームスタジアムでファンの応援を受けながらプレーすることができた。最終的に5試合のホームスタジアム使用禁止と無観客試合の開催が決められたのは、2度目のホームゲームが行われる2日前のことだった。

 リーベルの影響力を示す出来事はほかにもある。4年前、ヌエバ・チカゴ対ティグレの残留プレーオフで起こった重大な事件(ティグレファンのマルセロ・セハスが殺害された)の後、AFAは新たな問題が生じぬよう、2部以下の全カテゴリー(ナシオナルB、プリメーラB、プリメーラC、プリメーラD)の試合におけるアウエーファンの入場を禁じることを決めた。

 そのルールはリーベルのアウエー初戦、インデペンディエンテ・リバダビア・デ・メンドーサとの試合でさっそく破られた。インデペンディエンテ・リバダビアの会長はリーベル戦における経済的利益を得るべく、AFAに反いて1万2000枚のチケットを“中立的ファン”向けという曖昧な表現で販売した。その結果、AFAはほかのカテゴリーでの規制は保ったまま、ナシオナルBだけはアウエーファンの入場を許可する決定を下している。

 NGO「フットボールを救え」の代表モニカ・ニツァルドは言った。
「AFAのこの決定は、ただ1つのクラブ、リーベルのためならすべてを変えられることを証明している。そして国家は今回、4年間認めなかったことをあっさり認めた。それはつまり、スタジアムにおける暴力を避けるためのプロジェクトなど存在しないということだ」

 これらはすべて、リーベルがピッチの外で引き起こした事象である。ピッチ内に目を向ければ、そんな助けなど必要ないように見えるというのに。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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