出耒田敬、男子バレー界に大型エース候補が誕生

田中夕子

ブラジル、ブルガリアを破る原動力に

世界ジュニア選手権で強豪ブラジル、ブルガリアを破る原動力になった出耒田(中央) 【田中夕子】

 8月1日から10日までブラジル・リオデジャネイロなどで開催された男子バレーボール世界ジュニア選手権。5年後の2016年に南米大陸初の五輪が開催されるこの地で、次世代のエース候補が躍動した。

 8月13日に成人したばかりの大学2年生。出耒田敬(できたたかし:筑波大)だ。

 4カ国総当たりによる1次リーグ初戦、日本は開催国で前回大会の覇者、ブラジルをフルセット(21-25、25-19、25-20、22-25、18-16)の末破り、続く第2戦は欧州王者のブルガリアに0−2から逆転勝ち(2−-25、20-25、33-31、25-18、15-11)。
 ブルガリア戦で両チーム合わせて最も多くの47点(日本チームの得点は113点)をたたき出したのがオポジット(スーパーエース)の出耒田だった。

 試合後のプレスカンファレンスでも、話題は出耒田に集中した。
「日本のナンバー5(出耒田の背番号)についての評価と、可能性を教えてほしい」
 ニューヒーローが誕生した瞬間だった。

 身長の高さを見込まれ、中学生からバレーボールを始めた出耒田に、指導に当たった顧問の教師が熱心に授けたことがあったと言う。
それは「ゼロポジションで打てるようになれ」ということ。

 野球の投球やバドミントンのスマッシュなどの際に、肩関節の位置が安定し、動作時に最も負荷がかからないポジションがゼロポジションで、バレーボールで言えば最も高い打点からスムーズにボールを打つことができる。中学の3年間はひたすらそれだけを練習し、札幌一高では入学間もなくレギュラーの座を獲得。1年時には春の高校バレーにも出場したが3回戦で敗退した。しかし高さと将来性を見込まれユース代表に選出されると、09年には世界ユース選手権にも出場を果たした。

 卒業後は筑波大学へ進学。199センチの長身と最高到達点345センチの跳躍力を生かし、オポジットのポジションで高いトスを打つだけでなく、センターも経験した。クイックを習得する過程の中で、セッターがトスを上げる際のセットアップに入るとほぼ同時に踏み込んで打てるようになり、より速く、なおかつ高い打点からのボールヒットが可能になったことでプレーに幅も加わった。

「絶対にロンドン五輪に出たい」

リオ五輪で活躍するためにも、ロンドン五輪に出場したいと語る出耒田(5) 【田中夕子】

 美しく舞い上がり、しなやかで無駄のないフォームから放たれるスパイクで、ブルガリア相手に47得点を量産。そうなれば、注目するのはメディアだけでなく、他チームも警戒する。相手ブロックは当然、出耒田対策を練ってくるため、打てば気持ちよく決まった攻撃も、2次ラウンド以降はなかなか通らなくなり、風邪で体調を崩したことも悪循環を招いた。
「国内や、アジアで戦う分には高さが武器だと思っていました。でもこの大会を通して、高さだけでは圧倒的に足りないこと、自分の課題がはっきり分かりました。現時点の自分に点数を付けるならば(100点満点中)40点。120点だと思えるぐらいにならなければ、シニア代表は遠いです」

 とはいえ、今年度はシニア代表にも選出され、ワールドリーグドイツ大会(6月)にも帯同した。試合出場は果たせなかったが、出耒田の可能性がジュニア世代のみに留まるものではないことを物語っているのは確かだ。

 では、今秋のワールドカップや来夏のロンドン五輪に、出耒田がメンバーとして名を連ねる可能性はあるのか。

 ジュニアチームを率いた佐幸法昭監督の見解はこうだ。
「日本の中で、今後が最も期待される選手であると言えるでしょう。でもまだ技術、体力ともに十分ではなく、安定感も足りない。現時点で五輪、ましてやワールドカップは厳しいでしょう」
 出耒田も自認するように、高さという武器だけでは到底世界には通用しない。まずは筋力をつけ、パワーを携え、より厳しいマークにも打ち抜くだけの技術と精神力を磨くこと。それが早期にクリアされなければ、シニア代表も五輪も夢で終わってしまいかねない。
 しかし、佐幸監督はこうも言う。
「本人の気持ちが今以上に本気になれば、可能性はもっと広がる選手です」
 
 5年後の祭典が為される場所で、世界への第一歩を踏み出した。おのずと、思いは五輪へと広がる。
「リオデジャネイロ五輪は、僕らの世代が中心になります。そこに出て、世界で戦うためにはその前に五輪を経験しなければ、きっと(リオでは)何もできない。だから絶対に、ロンドン五輪に出たいです」

 まだ、わずかかもしれない。それでも男子バレー界にとって待望の大型エース候補誕生の可能性が広がったのは間違いない。
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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