東京Vユースに浸透する“最後までやり切る意識”=楠瀬直木監督が語る自身の指導哲学

小澤一郎

10番を付ける選手に強烈なダメ出し

クラブユース選手権で東京Vを2連覇に導いた楠瀬監督が自身の指導哲学を語った 【Ichiro Ozawa】

 7月31日に閉幕した「adidas CUP 第35回日本クラブユースサッカー選手権(∪−18)大会」は、東京ヴェルディ(東京V)ユースとヴィッセル神戸U−18の決勝となり、1−0で東京Vユースが優勝した。

 東京Vユースの試合は、初戦の京都サンガU−18戦と準決勝の柏レイソルU−18戦を見たのだが、激しく連動性のあるプレッシャーと選手のメンタルタフネスが際立っていた。3−2と勝利した京都戦では、試合終了のホイッスルと同時に、敗れた京都ではなく東京Vユースの選手たちがバタバタとピッチ上に倒れた。また、準決勝終了後には主将として攻守にチームを引っ張ったMF杉本竜士が倒れこんで嘔吐(おうと)する場面が見られるなど、今大会の東京Vユースは全力を出し切れるチームだった。

 就任2年目にして2連覇を達成した楠瀬直木監督に話を聞いてみると、これがなかなか面白い。能力やスキルの高い選手がそろった東京Vユースがチームとしてファイトでき、強いチームに仕上がっている理由が何となく分かった。

 例えば、今大会ではないのだが、高円宮杯U−18プレミアリーグの三菱養和戦後、現在のチームで10番を付けるMF端山豪に対し、「あんな草サッカーみたいなプレーをやっていて、トップで通用するわけない」と強烈なダメ出し。「彼のように、うちは見た目が上手でかわいがられてきちゃった選手が多く、できないことをずっと言われてこなかった。ちょっとふて腐れても、『この子は大事だ、うまいから』と言って甘やかされてきた。過保護にしてきているから誰も注意してくれなくて、チームメートからもアンタッチャブルな存在として扱われ、危機感がなくなる。“豪様”なんて呼ばれているからね」と付け加える。

 要するに楠瀬監督は、このユース年代でうまい選手、強いチームという基準に収まることなく、常に「トップで、上で通用するかどうか」を基準に厳しい指導をしているということだ。だからこそ、指揮官は堂々と語る。

「うちには、ユースから上がった選手がトップに定着していない問題があります。それは、これまでユースで勝って、そこで満足しちゃってる部分があったから。それがゴールじゃないし、トップはJ2のままではいけない。やはりトップはJ1にいるべきだし、そこでプレーする選手が育成上がりの選手たちという形にするためにはもっと厳しくしないと」

最後までやり切らせる指導法

 最近まで、楠瀬監督の指導哲学を全く知らなかったのだが、選手の将来を見据えた上で、最後までやり切らせる指導をしているのは今大会を見ただけでも十分に分かった。例えば、京都戦に勝った後もこう話していた。

「単純な話、もっとやんなきゃうまくならないし、鍛えられない。この年代は、まだまだ鍛える場だと思っているので。決勝に行ってどうのこうのは、それはそれで去年良かったですけど、結果的にあそこまで行ければいいというだけ。例えば、引いてしまって前に行かないで負けた、勝ったというのは、正直うちではナンセンス。やり切ることが人に何を訴えるか、自分に何を生むかを分かってもらいたい。

 今日も一生懸命やったことによって勝ったんだけれど、試合が終わって倒れてしまう。それでも死ぬやつなんて誰もいないし、足をつっているやつもいないし、まだできる。そこを毎試合重ねて、少しずつうまくなっていく。今日もあのくらいプレッシャーを掛けてボールを動かしても、パスの質が悪くて取られる回数が多いし、ミスをする回数も多い。そこをきっちりできないと、トップチームに呼んでもらえない。

 うちは経営的に楽なチームじゃないので、ここからすぐに試合に出る準備をしておかないといけない。試合には勝ったけど、プレーだけを見たら誰が明日トップでできるかといったらまだ(そういう選手は)いない。選手を上に上げて育てる、経験させる余裕はうちにはないから。逆に言うとチャンスもあるので、そこはみんなも理解していて、最後までやらせています」

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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