香川真司、絶対的な存在感を示した日韓戦=“点を取れる新たな10番像”の確立を目指して
代表復帰戦で因縁の相手と再び対戦
香川は1月のアジアカップ以来の代表戦となったが、ブランクも感じさせず2ゴールを挙げ勝利に貢献した 【Getty Images】
そのキーマンとなるのが、1月のアジアカップ以来の代表復帰となった香川真司である。ラモス瑠偉、名波浩、中村俊輔と偉大な先人たちが背負ってきたエースナンバー10を引き継いだ男は、「新たな10番像を確立させる」という志半ばにして、最終的にアジア王者となるザッケローニジャパンから途中離脱を余儀なくされた。右足小指付け根骨折を負ったのは、忘れもしない1月25日の準決勝・韓国戦。試合直後はごく普通に歩いていたのに、翌日の検査で重症と判明。松葉づえをつく痛々しい姿で帰国の途に着くことになったのだ。因縁の相手と今回、代表復帰戦で再び対峙(たいじ)することになったのだから、彼自身も期するものがあったはず。「けがのことは特に何とも思ってない。それより代表としてしっかりと結果を残していきたい」という静かな言葉に秘めた闘志が感じられた。
ザッケローニ監督も香川の復帰を心待ちにしていたに違いない。エースを欠いた6月のペルー戦、チェコ戦の日本代表は明らかに決め手を欠いた。指揮官が強く固執する3−4−3システムの習熟に選手たちの意識が行き過ぎたことも災いし、アジアカップで見られたようなスピーディーな縦への攻めが格段に減ってしまった。肝心なゴール前で自由自在に変化をつけられ、正確なシュートを打てる香川の存在がいかに重要かをあらためて浮き彫りにした2戦でもあった。
キリンカップを客観的な立場から見たという香川はこんな話をしていた。
「ゴール前とか3分の1のところはもっと仕掛ける姿勢を持たないと。リスクを冒すサッカーはどこが相手でもやらなきゃいけない。そこの精度を上げることが大事だと思いました。これから始まるアジア予選では相手に引かれることは間違いないですし、2、3点は入るような簡単な試合にはならない。だからこそ、お互いの距離感を考えながら、相手を揺さぶるポジショニング、スペースを作り出す動きが必要になってくる。辛抱強くゲームを組み立てないといけないと思います」
揺るぎない自信が最高の結果につながる
「コンディションは順調。多少代表から離れても感覚はすぐ戻るんで。久しぶりの試合なんで、もっともっと自分のプレーを表現できたらいいなと思う。それには結果が一番。ゴールは常に求めてます」と試合前に話す本人からは少しの不安も感じられなかった。
揺るぎない自信は日韓戦での最高の結果につながる。新エースナンバー10は代表のピッチで躍動し、自ら復帰戦を華々しく飾ったのである。
4−2−3−1の左サイドハーフに陣取った香川には、後ろの駒野友一といい距離感を保ちながら相手を封じ、攻めの起点になりながらゴールに向かうという幅広い役割が求められた。しかし、立ち上がりは駒野との連係が不安定にならざるを得なかった。韓国のチャ・ドゥリ、ク・ジャチョルという強力な右サイドコンビが攻め込んできて、危ない場面も何度かつくられた。それでもザッケローニ監督が「時間の経過とともに香川と駒野の距離がだんだん合ってきて、香川も犠牲心を持ってチームに貢献し守備面も頑張ってくれた。駒野もオーバーラップをすることで攻めながら守ってくれた」と高評価するように、2人の関係は徐々に改善されていった。
前半17分に中央のやや遠めの位置から初シュートを放ったあたりから、香川の戦闘へのスイッチが入る。1つ1つの動きに余裕が生まれ、得点に絡むのも時間の問題かと思われた。迎えた35分、自らの右足で先制点を奪う。遠藤保仁がガンバ大阪の同僚であるイ・グノからボールを奪い、中央でくさびに入った李忠成にパス。これを李が背後に流したところに走り込んできたのが香川だった。彼はDF2人を巧みにかわして素早いタイミングで右足を振り抜いたのだ。アジアカップ準々決勝・カタール戦で伊野波雅彦が挙げた決勝点を彷彿(ほうふつ)させるような「狭い局面の打開力とずぬけた決定力」を大一番で見せつけた。
後半10分のチーム3点目の場面は、ザッケローニ監督が言う「犠牲心を持った献身的な守備」からゴールにつなげた。香川は中央の低い位置まで相手を囲い込みに行き、遠藤と相手を挟んでボールをカット。これが李から本田圭佑へとつながり、再び自分が受けて右サイドに流れていた清武弘嗣へ。清武は相手を十分引きつけて飛び込んできた香川にパス。エースはこれを右足で合わせるだけだった。