新戦力発掘を検証、物足りない「A代表予備軍」=収穫は清武の再確認とハーフナーの可能性

元川悦子

現有戦力を脅かす強力な存在は現れず……

韓国戦メンバーからは落選したハーフナー(中央)だが、ほかのFWにはない高さは大きな武器になる。再招集される可能性がありそうだ 【写真は共同】

 続いて2本目は、GK権田、DF酒井宏樹、栗原、今野、太田宏介、ボランチに谷口博之と青山、右MF清武、左MF田中、トップ下を東、1トップに李という陣容。GKは16分に権田から東口順昭へと代わった。

 ザックジャパン常連組が今野、栗原、李と少なかったせいか、2本目は攻撃の組み立てがややギクシャクした。両サイドバックも高い位置を取れず、清武と田中もボールをつなごうと中へ中へと動いてしまうため、サイドでの数的優位が作れなかった。青山は同じ広島でプレーする李を狙ってクサビを入れる意識こそ高かったものの、効果的なチャンスは作れず、アピールという意味では増田同様に不完全燃焼だった。谷口もボランチとしては見せ場がなかったが、途中から東とポジションを代えてトップ下に上がってからは少しダイナミックさが出てきた。東はトップ下でも悪くなかったが、ボランチに入ってからもパス回しの流れを良くした。彼が幅広い可能性を示したのは前向きな材料と言えるだろう。
 この2本目の得点は、今野のフィードに抜け出した李がGKとDFを強引にかわし、もぎ取った1点のみ。「今日はチーム自体がやりたいサッカーをそこまでできていなかった」と李も不満そうに語った通り、練習で繰り返したことがほとんど出せていなかった。「戦術理解度の違いが出た? そういうのもあったかもしれないけど……」と李も言葉を濁したが、やはりザックジャパンに長くいる選手とそうでない選手の差は大きい。

 ザッケローニ監督も試合後、「スピードある攻撃やコンビネーションがさほど多くは見られなかった」と硬い表情で語った。現有戦力を脅かす強力な存在が出てこなかった落胆も感じ取れた。注目ポイントの1つだったボランチ候補も、やはり実績で上回る柏木が一番目立っていて、新戦力の面々は厳しい印象を受けた。U−22世代も試合で活躍したのは永井くらい。3次予選前最後の韓国戦での新顔招集はないだろうと思われた。

前言を翻す清武のサプライズ選出

 ところが、4日の代表メンバー発表で、清武がA代表に選ばれるサプライズが起きた。指揮官は1日の練習後に「U−22世代が五輪予選とW杯予選を掛け持ちするのは難しい」と語っていたが、前言を翻す大胆抜てきを見せたのだ。
「クラブ、五輪を通じて『継続性』を見せてくれたからフル代表に呼ぶに至った。3次予選前の大切な試合で呼んだということは、3次予選でやってくれるだけのポテンシャルを持っているということ」とザッケローニ監督は語り、清武を今後もW杯予選で使う可能性にまで言及した。

 確かに前述の通り、彼は合宿中の紅白戦で決定機に直結するプレーを何度か見せた。札幌大学との練習試合で戦術通りに動けずいら立っていたが、それは彼1人だけの問題ではない。本人も「まだ考えながらやっているんで、考えないでできるようになればいいんじゃないかな。すぐに慣れるし、大丈夫だと思います」と強気だった。それだけポジティブで、将来有望な選手だからこそ、もう1回チームに呼んで、本田圭佑ら常連組と組ませてみたいという思いが、指揮官の中でふつふつとわいてきたのかもしれない。

 香川真司もザックジャパン発足当初は中へ中へと動きがちだった。しかし「キミはデルピエロに似ている。外から中へ動いた方が実力を発揮できる」と指揮官から声を掛けられことで、考え方がガラッと変わった。清武も何らかのきっかけで同じような変ぼうを遂げるかもしれない。そういう意味では、今後の成長が非常に楽しみな選手である。

一発のあるハーフナーは再招集の可能性も

 そのほか合宿の収穫を挙げるとすれば、ハーフナーの存在か。韓国戦のメンバーからは落選したものの、今後も再招集の可能性が高い選手と言っていいだろう。194センチの長身FWがターゲットとして前線にいるだけで、相手DFにとっては脅威となる。アジア予選では自陣に引いて守る対戦国も多いだけに、一発のあるハーフナーはいざという時の「飛び道具」になり得るのだ。

「代表でプレーするといいクロスが入ってくるし、自分は駆け引きして合わせるだけでいい。ただ、周りと連係しないとうまくいかないんで、もう少し時間をかけたいですね」と本人も引き続き代表での練習機会を得たいと強く望んでいる。

 実際、ハーフナーは相手のパスコースを限定する的確な守備をできていないし、クサビのもらい方もまだまだ雑だ。そういう課題を少しでも直そうと、ザッケローニ監督はピッチ上で彼に事細かくアドバイスを送ったという。それも大きな期待の表れだろう。
「守備のやり方だとか、クサビの顔の出し方だとかを指摘されたので、それを意識したい。今後のA代表定着のためには質を上げること。ボールを取られないFWになることが大事だと思います」とハーフナー自身、この先、何をすべきかが明確になったという。

 森本貴幸、前田遼一、李という、これまで1トップを担った選手たちとは明らかに異質のハーフナーが使えるようになれば、ザックジャパンは大きな武器を持つことになる。10月の3次予選・第3戦のシリア戦前に国内合宿を組めば、新戦力を再度チャレンジできる機会はわずかながらある。また今回、A代表予備軍が合宿で学んだことを吸収し、Jリーグでどのように生かしていくかによって、新たな可能性も見えてくるはずだ。今後の動向をしっかりと注視していきたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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