新戦力発掘を検証、物足りない「A代表予備軍」=収穫は清武の再確認とハーフナーの可能性

元川悦子

注目は欧州組中心の攻撃陣に割って入れるか

日本代表は1〜3日まで、札幌で合宿を実施。ザッケローニ監督(中央)はコンセプトの浸透を図ると同時に、新戦力発掘の機会を設けた 【写真は共同】

 コパ・アメリカ(南米選手権)不参加によって、日本代表は9月2日から始まる2014年ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会アジア3次予選前のチーム底上げの場が失われてしまった。そこでアルベルト・ザッケローニ監督は3次予選前に何とか新戦力発掘の機会を設けたいと熱望し、8月1〜3日に札幌での代表候補合宿実施にこぎ着けた。

 メンバー24人は「A代表予備軍」と言える面々が軸。U−22世代の永井謙佑、清武弘嗣ら8人を筆頭に、J1得点ランキング上位のハーフナー・マイクや田中順也らが招集された。欧州組中心の攻撃陣にフレッシュな国内組が割って入れるかどうかは、今回の注目ポイントの1つだった。

 国内組のベテラン遠藤保仁が免除されたボランチのポジションには、柏木陽介が復帰。今季好調の増田誓志や青山敏弘ら新顔にもチャンスが与えられた。遠藤の後釜探しはザックジャパン発足後の重要テーマになっており、1月のアジアカップでは柏木、6月のキリンカップの際には家長昭博がテストされている。再び調子を上げた柏木や遠藤に近い仕事のできる増田、青山を手元に呼んで見極めたいと指揮官は考えたのだろう。

 こうした思惑の中、合宿は始まった。初日は守備戦術に重点が置かれた。ザッケローニ監督は「ピッチの片側に相手を追い込み、サイドで人数をかけてボールを奪う」という守備をコンセプトにしているが、その徹底に2時間の半分を要した。ハーフナーや田中、東慶悟ら初めての選手たちはポジショニングに戸惑い、何度か修正される場面が見られた。それでも永井が「結構、頭には入ってくる。慣れたら良くなりそうですね」と前向きに話すように、一応の理解を示した選手が多かった。

 2日目は攻撃が中心。ボランチからFWにクサビを入れつつ、外で数的優位を作って中を狙うといった攻撃パターンが繰り返された。今野泰幸らセンターバック4人だけを集め、相手のマークをはがすパス回しも練習。「韓国みたいに前から来る相手をうまくいなせれば逆にチャンスになるから」と栗原勇蔵が言うようにうに、10日の韓国戦を想定した内容も盛り込まれた。2日続けてラストに行われた紅白戦ではハーフナーが打点の高いヘッドで存在感を示したり、清武が鋭いサイドチェンジから田中や東を生かすプレーを見せるなど、彼らへの期待は俄然高まった。

「常連組」のコンセプト理解度の高さを実感

 迎えた最終日、日本代表は札幌大学と45分×2本の練習試合に挑んだ。1本目はGK西川周作、DF西大伍、鈴木大輔、岩政大樹、森脇良太、ボランチに増田と柏木、右MF藤本淳吾、左MF永井、トップ下に山田直輝、1トップをハーフナーが務める布陣で臨み、31分に西川が権田修一と交代した。

 3日間で最も暑くなり、コンディション的に厳しかった上、大学生が頭から飛ばしてきたこともあって、序盤はやや苦しめられた。柏木が積極的にボールを触ってリズムを作ろうとするも、なかなか得点機につながらない。ここでリズムを生み出したのが両サイドバックだった。前日の練習通り、西と森脇が高い位置をキープ。前にいるサイドハーフの藤本、永井とそれぞれ連係してチャンスをうかがった。彼ら「常連組」のコンセプト理解度の高さを実感させられた。

 左サイドの永井は当初、ポジショニングが中途半端だったが、試合途中に和田一郎コーチから指示を受け、より外から中へと動き始めた。これが功を奏し、森脇との関係もスムーズになってきた。「永井の特長は縦に速いこと。足元で受けるより前で受けた方がいいなと思っていたんで、その良さをうまく引き出せたんじゃないか」と森脇も満足そうにコメントしている。
 19分の先制点はその永井がおぜん立てした。岩政からのロングパスに反応すると、左サイドをドリブルで崩してシュート。GKがはじいたところを山田が押し込む形だった。山田も長期離脱前のキレはまだ戻っていないものの、豊富な運動量とゴールへの嗅覚(きゅうかく)を見せた。

 4分後に生まれた2点目は練習通りの形。増田からパスを受けた永井が森脇にいったん預けて追い越し、左サイドの深い位置で再び受けてクロス。ニアサイドに飛び込んだハーフナーが頭を決めた。相手が大学生とはいえ、194センチの長身FWの迫力あるヘディングはやはり誰も止められない。本人は「大学生相手だから……」と謙遜していたが、ほかの誰にもない特長をアピールできたのは確かだ。

 一方で、注目のボランチの1人である増田は積極性を出せなかった。「今の自分は代表で上に行けない位置。行けたらラッキーくらいに考えている」という遠慮がちな発言通り、ガツガツしたプレーは影を潜めた。序盤に訪れたGKとの1対1の場面もシュートをミスし、中盤でのつなぎの部分も横パス、バックパスばかり。前へ出る強気の姿勢がなければ、遠藤の後継者候補に名乗りを上げるのは難しいのだが……。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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