新たな変化に賭けたアルゼンチン

W杯予選敗退の危険性を憂う厳しい現状

 今確かなのは、厳しい仕事がサベーラを待っているということだ。彼が置かれた状況は望ましいものではない。18年間も無冠が続いているフル代表のモラルは地に落ちている。自国開催のコパ・アメリカで敗退することなど、誰も考えていなかったのだ。そして今回の敗退により、アルゼンチンは13年にブラジル、スペイン、メキシコ、日本、ウルグアイ、そして来年決まる欧州王者が参加するコンフェデレーションズカップへの出場権も失った。

 さらに悪いことに、アルゼンチンは10月に始まるW杯予選の初戦で強豪のチリをホームに迎える。開催国のブラジルを除く9チームに4.5枠の出場権が与えられる予選で、敗退の危険性を憂うことなど過去ではあり得ないことだった。だが、今は状況が違う。アルゼンチンの予選突破を保証するものなど何もない。

 先月のコパ・アメリカでアルゼンチンは、W杯予選のライバルのうちの3カ国(ボリビア、コロンビア、ウルグアイ)とホームで対戦し、1試合も勝つことができなかった。ライバルたちがコパ・アメリカ以上にモチベーションを高めてくるだろうW杯予選で、この状況が劇的に変わることなどあるだろうか? やるべきことは山積みなのだ。

サベーラには十分な時間が与えられるのか

 プレー面だけでも不安要素は山ほどある。1つは協会内の意思疎通だ。この点を改善すべく、これまでマネジャー的役割を務めてきたスポーツディレクターのカルロス・ビラルドは、新たにグロンドーナの相談役として協会とチームの間に立つ役割を担うことになった。一方、これまで喜ばしい立場になかった会長の息子ウンベルト・グロンドーナの新体制における役割は引き続き検討されている。

 U−17代表を率いたオスカル・ガッレ、フリオ・オラルティコエチェアも、バティスタとアシスタントコーチのホセ・ルイス・ブラウンとともに解任されることになった。彼らの前にはマラドーナとアシスタントコーチのエクトル・エンリケ、そして前コーチ陣との不仲によりわずか1年半で任期を終えたオスカル・ルジェリも協会を去っており、これでメキシコW杯優勝メンバーの“86年世代”に与えられたチャンスは終わりを告げることになった。

 恐らくサベーラのアシスタントにはガブリエル・バティストゥータが加わるだろう。新監督が立ち向かうべき当面の課題は、メッシとほかの選手たちとの相互関係を確立すること、アルゼンチンが世界に誇る偉大なストライカーたちの能力を引き出すこと、そして最悪の状態にある最終ラインを立て直すことだ。

 とはいえ、最大の疑問は果たしてサベーラに十分な時間が与えられるのかという点だ。彼が良い結果を出せなかった時、再びすべてが白紙に戻されてしまうのかどうか。その答えは、時間の経過とともに明らかになるはずだ。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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