世界を知るU−17代表戦士、夏の日本一に挑む=インターハイ2011展望

安藤隆人

「タレント不在」を覆したU−17日本代表の快進撃

U−17W杯ではゴールも決めた植田(左)だが、世界との壁を痛感した大会でもあった。ここで学んだ経験をインターハイでも生かしたい 【写真:MEXSPORT/アフロ】

 いよいよ、7月28日から高校生たちの真夏の祭典・インターハイ(高校総体)が北東北(青森、岩手、秋田、宮城)で開幕する。サッカーは1回戦から3回戦まで毎日連続で行い、1日の休憩を挟んだ後に、準々決勝から決勝を毎日連続で行うという、超ハードスケジュールだ。加えて試合時間は午前から午後にかけ、強い日差しが照りつける時間帯で、選手たちには相当な負荷がかかる。インターハイを勝ち抜くには、単純な実力だけではない、タフさが求められる。

 今大会、注目度で言えば、先月までは昨年に比べてそこまで高くはなかったと言っていいだろう。というのも、昨年は柴崎岳(青森山田→鹿島アントラーズ)、櫛引政敏(青森山田→清水エスパルス)、小島秀仁(前橋育英→浦和レッズ)、昌子源(米子北→鹿島)、谷尾昂也(米子北→川崎フロンターレ)、大島僚太(静岡学園→川崎)、福森晃斗(桐光学園→川崎)、鮫島晃太(鹿児島城西→サンフレッチェ広島)、樋口寛規(滝川第二→清水)、清水慎太郎(西武台→大宮アルディージャ)、櫛引一紀(室蘭大谷→コンサドーレ札幌)と、後にJリーグに進んだ逸材が開催地の沖縄に集結。“プラチナ世代”と呼ばれ、才能きらめく選手たちが多かったこともあり、注目度は非常に高かった。

 そのため、彼らが卒業したことで、一気に高校サッカーは「タレント不在」とくくられることになってしまった。全国を見渡せば、光るタレントは確かにいる。しかし、昨年と比べるとどうしても見劣りしてしまう。これが世間一般の見方だった。

 しかし今月、その考えを大きく覆す出来事が起こった。そう、U−17ワールドカップ(W杯)・メキシコ大会だ。この大会でU−17日本代表はジャマイカ、フランス、アルゼンチンという強豪ひしめくブロックを2勝1分けの1位通過を果たすと、ラウンド16ではニュージーランドを6−0と撃破し、初のU−17W杯決勝トーナメント1勝を挙げた。準々決勝ではブラジルに2−3で敗れたものの、激闘を繰り広げた。質の高いポゼッションサッカーと1人1人の戦う気持ちは、「タレント不在」という、このチームの前評判を一気にひっくり返した。

 DF植田直通(大津)、DF室屋成(青森山田)、MF望月嶺臣(野洲)。U−17日本代表躍進に大きく貢献したこの3人がサッカー開催地の秋田にやってくる。“世界を知る”選手たちの登場によって、大会への注目度は大きく変わった。

日本の壁となった大津・植田が全国の頂点を狙う

 U−17日本代表のセンターバックとして5試合すべてに先発フル出場した植田は、大津(熊本)の一員として臨む。185センチの長身、中学時代にはテコンドーで世界大会に出場した異色の経歴を持つなど、ずば抜けた身体能力の持ち主は、各国のFWを相手にまったく臆することなくプレーした。

 だが、フランス戦とブラジル戦は、世界との壁を痛感する試合となった。フランス戦、後半から投入された長身MFメイテを相手に、競り負けるシーンが見られた。それ以外の試合では空中戦で負けることがほとんどなかっただけに、彼にとっては大きな経験になったことだろう。
「フランス戦はもっと自分がしっかりと判断をしておけば防げたシーンがあった。ヘッドに関しても、足りない部分があったと感じた」

 ブラジル戦では、ヘッドの目測ミスが2失点目に直結してしまった。立ち上がりも守備面で後手に回ることが多く、振り切られてしまうこともあった。
 それでも、植田の持ち味は高い修正能力にある。課題に直面したとき、彼はそこをどう解消して、どうすればより上に行けるかを知っている。だからこそ、サッカーを本格的に始めて3年足らず、センターバックを本職にして1年足らずで、ここまで成長することができたのだ。
「ヘッドに関しては、相手との距離感、ジャンプのタイミングを理解したので、もう大丈夫です。自分のミスが即、失点につながっていくということを本当に痛感させられましたね。でもセンターバックとして自信はあります。1対1は負けないというところは自信になりました」

 ベスト8という結果とともに、植田は大きな自信を手に入れた。それと同時に、世界のレベルの高さを肌で感じ、まだまだ伸ばすべき要素があるということも理解できた。
「この大会で学んだ1対1の対応を、日本に帰ってももっと自分で試していきたい」
 大きな財産を持ってチームに戻ってきた植田が、すぐにその成果を発揮する舞台は整った。彼にとって、大津での全国大会にはあまりいい思い出はない。1年生からレギュラーを勝ち取ったが、昨年のインターハイは県予選で敗れた。そして自身初のサッカーでの全国大会となった高校選手権では、国立での開幕戦で駒澤大高と対戦したが、植田はクリアミスをはじめ、らしくないミスを連発。チームも1−2で敗れ、悔いの残る大会になってしまった。

 今回は2度目の全国大会。もう二度と悔しい思いをしないためにも、彼が期するものは大きい。「インターハイで優勝したい」。テコンドーで全国の頂点に立ったことがある男は、もう1つの日本一を目指す。

「世界を経験して、彼のストロングポイントがさらに磨かれた。ヘッドのパワーもついてきたし、1対1に対する間合いや戦う姿勢がより研ぎ澄まされてきた。インターハイは疲労もあるが、この大会で成長して、守備の中心になってほしい」
 大津・平岡和徳監督も大きな期待を寄せるセンターバックは、秋田で日本全国にその成長した姿を見せつけてくれるはずだ。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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