佐藤嘉洋、90分独走インタビュー=クラウス戦勝利の翌日に聞いたK−1と格闘技界のこれから

t.SAKUMA

縮小している格闘技業界、“外”へ目を向けるには

佐藤が考える格闘技人気復活のポイントとは? 【t.SAKUMA】

――話は変わって、今回のインタビューでは佐藤さん個人以外の事も聞きたいのですが、ここ数年K−1に限らずですが、格闘技界全体が縮小しているのが現実だと思います。佐藤さんは何が大きな要因だと思いますか?

 僕はみんなの目線が内側に向いてるのが原因かなと思います。内へ内へ向いてるような。僕は外に向けないといけないと思うんですよ。結局、今、凄い小さなコミュニティーで争いが起きてる。そんなことしとる場合じゃないと思いますね。自分らが争うべきはコミュニティーの外にいるはずなんですよ。それをキック界は30年気づいていない。内へ向けばそれだけコアなファンは増えますけど、それでは後楽園を満員にするくらい。それだけでは選手は生活できないし、主催者もビジネスとして成り立たない。僕はもっと目を外に向けるべきだと思いますね。

――具体的に言うと外に目を向けるとはどのような方法があると思いますか。

 例えば、各団体がユーチューブとかを使って毎週必ず1回、チャンネル的なものを更新するだとか。選手個人でも仕組みを作ってもらえれば更新もできると思うんですよね。でもそれは外には向いてるけど、格闘技に興味がある人しか見ないと思うんですね。格闘技に興味がない人の目線を集めるには……

――何かありますか?

 内に向けた良いやり方としては、大会終了後にケガがない選手はお客さんと握手して送り出すとか。あまりやっているところがないので、そういうことをしっかりやるのはいいと思いますね。それはAKB48からヒントを得たんですよ。AKB48は一人ひとりのファンへ向けた輪が大きくなった。キックもできると思うんですよ。メインの選手が試合後にリングから降りてきて出口で待っていたら、観に来てくれた人は気持ちがいいじゃないですか。キックのチケット買ってくれる人はだいたい選手の友達ばかりなんですよね。学芸会と変わらないじゃないですか。
 この前、NJKFで大和哲也と西山(誠人)選手がメインの試合がありましたけど、試合前に帰ったお客さんが凄く多かったんですね。本当にもったいないと思いましたね。あれだけ良いカードなのに、友達の試合が終わったら帰ってしまう。それを防ぐには、まずはチケットを買ってくれた人が友達以外の試合にも興味を持ってくれるような形にしたい。KrushやRISEは煽りVがあるからまだ感情移入ができる。でもこの間見たNJKFは煽りVがないから、パンフレットを買わなかったらどの選手が誰ってわからない。パンフを買う人なんてそうそういないと思うし。でもこれは内に向いてる話ですね。

――では、外に向けては何かありますか。

 外はどうなんだろうな。そういう意味で、K−1は完全に外を向いていたので凄いなって思いますね。昨日、鴇稔之さん(元MAキックバンタム級王者・Kick Box代表)との世間話でヒントを得たんですけど、キック関係者だけの団体はうまくいかないと。K−1がなぜうまくいったのかは外の人間が入ったからだと。結局、格闘技畑の人間だけで作ってしまうと、格闘技好きのコンテンツしかできない。格闘技とは関係のないド素人の人がコンテンツを創ることができれば一般人の目線でいろいろできると思う。だから格闘技素人の広告会社なんかにアドバイスしてもらったりするのが良いのかもしれません。

エンターテインメントも大事だけど、競技として根付いて欲しい

07年のK−1MAX。日本武道館はアリーナから最上階まで客席はギッシリ埋まった 【t.SAKUMA】

――以前のK−1MAXは武道館や有明コロシアムを超満員にしていました。現在のK−1が観客動員に苦労している要因はなんだと思いますか?

 コアなファンは増えたけど、一般のファンの興味が離れたのは競技が成熟し過ぎたからですかね。競技が成熟すればするほどKO決着は少なくなるし、拮抗すればするほど凡戦になることもある。それはテレビコンテンツとして成立していないのかなと。テレビはわかりやすさを求めるので、それに応えるためには成熟しているとダメなのかと思いますよね。今までのK−1って競技としての成熟は目指していなかったと思います。半分エンターテイメントで、テレビの為にやっていた。だからK−1の理想とは離れていってるのかなと。でも、僕はこの世界に踏み込んできたからには、エンターテインメントも大事だけど、競技として根付いて欲しいです。ただの見世物小屋で終わってほしくないんですよね。競技として自分の実績が語り継がれるようなものになってほしいんですよね。理想論だから難しいですけど。

――例えば昨日の大会、拮抗した戦いが続いたわけですが、面白くないという声も多く聞かれました。

 だから最初のオープニングファイトでKOが出てたじゃないですか。でも、それは実力差があるからですよね。一方のトーナメントは日本のトップが集っているわけだから、KOはなかなか難しい。KOは運の部分が大きいです。

――KOが少ないと面白さが伝わりにくいようです。

 格闘技が野球やサッカーと違うところは、コアなファンの数が圧倒的に違いますよね。だから、サッカーでいうところの、中盤でのボールのせめぎ合いを面白いと言えるようなファンが、格闘技にはまだまだ少ないということですかね。その差なんじゃないかなと。

普通に考えたら素足で蹴り合う凄さっていうのは理解しにくい

佐藤が今月オープンしたキック系フィットネスジム。「ゆるい空間にしたい」と言う佐藤だが、競技人口を増やすのも一つの目的だ 【提供:名古屋JKフィットネス】

――サッカーでのフォーメーションごとの戦術や、野球で言うところのバント戦術のような部分を、格闘技においてファンがを楽しめるようになるにはどうすればよいのでしょう。

 僕は競技人口を増やすしかないと思っています。僕自身はゴルフをやらないので、石川遼選手の何が凄いかっていうのはわかりません。でも、ゴルフをやっている人間からしたら、彼の凄さが良くわかるはずです。ゴルフの競技人口が多いからこそ彼があれだけ評価されている部分もあると思います。キックも一緒だと思うんです。普通に考えたら素足で蹴り合う凄さっていうのは理解しにくい。でも、キックをやったことのある人から見たら、その凄さが絶対にわかると思います。格闘技は今、大半が見る人しかいないですから。

――なるほど。ということは見る人だけ、つまりお客さんだけを増やそうというのは都合の良い考えなのですかね。

 見ている人だけを増やすのはエンターテイメントでありショーですね。それなら戦う必要がないですよ。見せるだけでいい。だったら僕とクラウスで台本を書いてドラマチックな戦いをやればいい。でも、僕やクラウスが目指すのはど突き合いであって、試合が終わったら「ようお互いにやったな」って抱き合うのが目指してるところ。やっているのは真剣勝負だから。僕は競技として根付いてほしい。

――K−1を競技として捉えるのか、それともエンターテイメントとして割り切るのか。この悩みは長年にわたりファンや関係者にとってもジレンマに陥っている部分があるかと思います。ただ、佐藤さんの戦いを見る限り、佐藤さんはK−1を常に競技として、つまり勝利することを最上として戦っているように見受けられます。

 自分は勝つのがプロとして一番だと思う。でも、ただ勝てばいいって思うのは違うと思う。セコセコ逃げて勝とうとは思わない。攻めて勝ちたいと。そしたらお客さんも納得してくれるだろうと。

08年10月の魔裟斗戦。佐藤が魔裟斗からダウンを奪い、その後魔裟斗が猛追。判定問題も騒がれたが、それでもMAX史上、最も会場を沸かせた名勝負でもあった 【t.SAKUMA】

――佐藤さんのベストバウトの一つでもあると思われる魔裟斗戦(08年10月)での殴り合いは両者の意地が前面に押し出されて、勝ち負けを超越した部分で盛り上がったように思います。もし、それを成功とするなら、勝利を目指さなくてもお客さんが感動してくれれば良いと思ったことは。

 僕が思うに、お互いに勝ちたいという気持ちを持ってぶつかり合うから負けた者も美しいと。勝っても負けても会場を沸かせりゃいいやっていう気持ちで負けた人は美しくないと。一般に伝わるかどうかはわかりませんが。選手で勝ちたくない奴なんていない。負けたいと思って試合する奴はいないと思います。

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