地獄のリーベル

 6月26日、リバープレート(リーベル)が110年の歴史で初めてアルゼンチン2部リーグへ降格となった。33回の優勝を誇る名門の陥落はファンを大いに落胆させ、怒らせるに十分で、サポーターと警察の争いがあちこちの通りで展開されるありさま。ここから立ち直るのは簡単ではなさそうだ。

 アルゼンチンで、力のあるクラブが降格を免れるのは実は簡単である。多くのリーグでは成績下位の2、3チームが自動的に降格するが、アルゼンチンリーグでは過去3シーズンの成績が考慮される。たとえ2シーズンしくじっても、資金力のあるビッグクラブなら補強で好成績を残せば、1シーズンでデッドゾーンから脱出できるわけだ。ところが、これほど有利な条件にもかかわらず、リーベルはベルグラーノとプレーオフを戦うことになった。アウエーでの第1戦は0−2で負け。モニュメンタル(リーベルの本拠地)での第2戦を難しいものにしてしまった。

 リーベルは開始5分でマリアーノ・パボーネのゴールで先制し、残留への希望を見いだす。しかし、60分すぎに同点に追いつかれてしまう。失点はGKとDFの連係ミスからだった。リーベルにはPKも与えられたのだが、パボーネのシュートはGKに止められる。リーベルは必要な2ゴールをゲットできず、降格が決定した。6万人の観衆は大騒ぎとなり、ピッチにはおびただしい数の物が投げ入れられた。両チームの選手たちが、警備員に守られながらピッチを後にしたのはもちろん、警察は観衆を鎮めるために放水を始めた。

 15年前、エンツォ・フランチェスコリを擁してリベルタドーレス杯を制したクラブが、なぜ降格することになったのか。まず、戦術的にはロペス監督がチームを掌握できていなかった。第1戦に敗れた後、6人の選手をスタメンから外している。第2戦では少なくとも4人のFWを先発させ、4バックを3バックに変更した。結果的に、この変更はチームのバランスを失わせただけだった。
 リーベルの元選手、元監督で、現在の会長であるダニエル・パサレラは、ファンの“辞めろ”コールに対して「辞任するつもりはない」と語り、「辞めさせたいなら辞めさせてみろ」と挑発した。アルゼンチンでは極めて危険な行為だ。試合の数日後、役員の1人であるダニエル・マンクーシの家には火炎瓶が投げ入れられた(幸いけが人はなし)。

 アルゼンチンにはバーラ・ブラバの名で知られる過激なファンがいる。彼らはクラブに影響力を持とうとするが、リーベルはその最悪の例だろう。ベルグラーノ戦で彼らは試合の進行を妨げ、暴動を回避するために主審は89分で打ち切っている。この愚行が招いたのは降格だけでなく、来季のモニュメンタル使用禁止20試合である。

 降格の影響はかなり大きい。約5億5000万円のテレビ放映権料は7分の1に減額される。サポーターの暴動による観客数の減少は確実で、クラブは入場料の値下げを検討していたのだが、20試合のホームゲーム禁止によって、1シーズン収入がなくなってしまう事態に直面することになった。アルゼンチンのクラブは選手を欧州のクラブなどに売却することで財政を維持してきたが、2部降格の収入源によって、リーベルは現在のメンバーを全く維持できなくなる。移籍の低年齢化も進み、19歳のエリック・ラメラはこの夏にも欧州のクラブへ移籍すると言われている。

 アルゼンチンにおけるサッカーはただのスポーツではない。ブエノスアイレスの北側に位置するリーベルは富裕層のクラブだと言われ、労働者の支持するボカ・ジュニアーズと対極の関係にある。名選手も数多く輩出してきた。アルメイダ、バルボ、アジャラ、バティストゥータ、フランチェスコリ、ケンペス、オルテガ、シボリ、ディ・ステファノらがプレーしてきた。しかし、リーベルの降格は国民的イベントであるボカとの“スーペルクラシコ”を消滅させてしまうことになった。

 アルゼンチンサッカー協会のグロンドーナ会長は、コパ・アメリカ(南米選手権)にモニュメンタルを使用すべきかどうか考え中だ。サポーターの暴動の影響はコパ・アメリカにも影を落としている。降格当初は、サポーターもより支えようという心理が働くものだが、やがて暴力の色彩を帯びた大きな苦労を強いられることもよく起こる。すでに多大な負債を抱えているリーベルの復活は簡単ではないだろう。

<了>
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著者プロフィール

1965年10月20日生まれ。1992年よりスポーツジャーナリズムの世界に入り、主に記者としてフランスの雑誌やインターネットサイトに寄稿している。フランスのサイト『www.sporever.fr』と『www.football365.fr』の編集長も務める。98年フランスワールドカップ中には、イスラエルのラジオ番組『ラジオ99』に携わった。イタリア・セリエA専門誌『Il Guerin Sportivo』をはじめ、海外の雑誌にも数多く寄稿。97年より『ストライカー』、『サッカーダイジェスト』、『サッカー批評』、『Number』といった日本の雑誌にも執筆している。ボクシングへの造詣も深い。携帯版スポーツナビでも連載中

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