吉武ジャパン、“プラチナ世代”を越えられるか=U−17ワールドカップ・メキシコ2011 開幕プレビュー

安藤隆人

個性的な選手がそろう中盤

FWの中心は身長181センチの屈強なストライカーである鈴木隆雅(右) 【写真:MEXSPORT/アフロ】

 中盤に目を向けてみると、こちらも個性的な選手がそろう。中心となるのは、キープ力とパスセンスに秀でた望月嶺臣と野沢英之、守備力の高い深井一希だろう。吉武監督は中盤をダイヤモンドとする4−4−2と4−3−3を採用するが、望月と野沢、深井をどこに置くかで、チームの形が決まってくる。

 ダイヤモンドの場合、深井がアンカーになるか、起点となれる望月を置くか。中盤の底からゲームを作りたい場合は望月を、守備面でセンターバックの前に安定感が欲しい場合は深井という選択肢になるだろう。野沢は本来はボランチだが、攻撃力が高く、サイドハーフとしての起用もある。4−3−3の場合はこの3人を並べると、全体に安定感が生まれる。

 ただ、彼らで固定されたわけではない。前述したように秋野、室屋、早川らが入ってくること、強烈な右足を持った石毛秀樹や、裏への飛び出しがうまい喜田拓也の起用も考えられる。ダイヤモンドにした場合、トップ下には松本昌也が入って、望月とともにタクト振るうことになる。

復調が待たれるFW陣

 そして最後にFW。このチームに懸念材料があるとすれば、このポジションだろう。中心となるのは、ナンバー10を背負う鈴木隆雅。181センチの屈強なストライカーは当初このチームではサイドバックやセンターバックをこなしていた。

 本来、このチームには絶対的なエースがいた。南野拓実はこの世代屈指のタレントとして注目を集めるが、大会を前にして精彩を欠く日々が続いている。昨年のAFC U−16選手権では、ゴール前での鋭い嗅覚(きゅうかく)と絶妙なタイミングでの飛び出し、ハイレベルなシュートセンスでゴールを量産。3大会連続のU−17W杯出場の立役者になった。持っている能力は間違いなく、復調が待たれる存在だ。

 復調が待たれるといえば、184センチの屈強なストライカー、鈴木武蔵にも当てはまる。ジャマイカ人の父を持つ彼は身体能力が高く、ゴール前での躍動感あふれるプレーはこのチームの大きな武器であったが、けがの影響もあって精彩を欠き、本来のダイナミックさが失われていた時期もあった。しかし、大会直前の練習試合でゴールを挙げるなど、復調の兆しを見せている。鈴木武と南野が復調すれば、チーム力とチームバランスは格段にアップするだけに、2人の奮起に大きく期待したい。

 2トップならば鈴木隆を軸に、南野、鈴木武か、俊敏性のある中島翔哉が考えられる。3トップの場合、左に早川が入る可能性もあり、ダイヤモンドの場合はトップ下に松本ではなく、中島や南野を置くパターンもある。さらに高木をFW起用することも十分にあるだろう。
 
 難敵ぞろいのグループだが、このチームにはどんな組み合わせで戦うかという楽しみがある。誰がどのポジションをこなし、どの布陣を採用するのか。これは過去のU−17代表にはなかったものだ。チームに大きな柔軟性を植え付けた吉武監督はどんな決断を下すのか。いよいよ本番が始まる。遠くメキシコの地で繰り広げられる若き日本代表の戦いにぜひ注目してほしい。ここを軽視していたら、日本の将来は危うい。

<了>

安藤隆人『プラチナ世代のW杯』

『プラチナ世代のW杯 2014年・2018年の日本代表メンバー』 【白夜書房】

過去に例を見ないほど優秀な才能を持つ選手が集結した花の92年組。“プラチナ世代”と呼ばれる彼らの中でも突出したタレント約20名の経歴からプレースタイル、今後の伸びしろ、人物像に至るまでを分析紹介。92年組の親分的存在、宇佐美貴史をはじめ、ヨーロッパを舞台に活躍中の宮市亮、すでに高校2年時にはチームの司令塔として選手権で国立を湧かせた柴崎岳ら、海外のビッグクラブからも注目を集める彼らの知られざる情報をまとめた一冊。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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