古葉監督と江藤監督――勝敗を分けた“8回の攻防”

松倉雄太

東京国際大vs.慶応大 老練な指揮官が見せた戦いの術

東京国際大・古葉監督。広島を3度、日本一に導いた名将はこの日も積極的に動いた 【島尻譲】

 東京国際大・古葉竹識監督、75歳。慶応大・江藤省三監督、69歳。年齢を見ても、積み重ねてきた知識は相当なものだろう。
 全日本大学野球選手権の準決勝。プロ野球まで経験した老練な指揮官が繰り出す戦いの術(すべ)は勝敗を超えた“興奮”を見ている人に与えてくれた。

 両監督が「ポイントだった」と話したのは4対4で迎えた8回裏、東京国際大の攻撃。先頭の5番・茂木亮太(4年)がヒットで出塁した後だった。
 古葉監督は代打に森口博充(4年)を送る。森口は1球目からバントの構えを見せるが、送ることはしなかった。そして3球目、一塁走者の茂木が走った。盗塁成功!
 「バントに見せて盗塁させました」と話した古葉監督。マウンドの福谷浩司(3年)をはじめ、慶応大サイドは意表を突かれた。

慶応大・江藤監督。試合後には古葉監督の戦いぶりに敬意を表した 【島尻譲】

 その後の4球目を森口はきっちりと送る。1死三塁。古葉監督はさらに動いた。ここで代打に起用したのは主将の山田亮太(4年)。
 これを見て「スクイズも考えた」という江藤監督も動く。マウンドに行き、福谷に「信頼している」と告げた。
 この間合いを境にして福谷は、それまで150キロの直球で押していたのを、変化球主体に変えた。
 「外野フライかヒットを打ってくれれば」と古葉監督が期待した主将は簡単に追い込まれて、結局ピッチャーゴロに倒れた。

 さらに8番・小名木弘毅(3年)は変化球でカウントを整えられて、最後は151キロの直球で空振り三振。
 「真っすぐが狙われていると福谷は分かっていたと思う」と振り返った江藤監督。古葉監督も「変化球のコンロトールが良かった」と相手をたたえた。

流れをつかんだ慶応が9回に勝ち越す

9回に勝ち越し打を放った山崎錬 【島尻譲】

 この8回が明暗を分け、9回に先頭の9番・福富裕(3年)の四球から、3番・山崎錬(3年)の勝ち越し打につなげた慶応大。さらに代打の田中聡(4年)がライトへ二塁打を放ってダメを押した。
 「しんどい試合だった。今のチームではああいう経験は初めて」とホッとした表情を浮かべた江藤監督。
 一方の古葉監督は9回以外の失点にミスが絡んだことに触れ、「最後に情けない試合をしてしまったな」とナインに語りかけた。

「勝ってナンボ」(古葉監督)という勝負の世界。この日の戦いは総合力で勝る慶応大に軍配が上がった。だが江藤監督は、「(古葉監督には)チームで戦う、そんな感じが見られた。勉強になりました」と野球界の先輩に敬意を表した。

 元プロ監督同士の対決に「光栄です。大学野球を盛り上げていければ」と語った2人の将。
 試合前と同じく、試合後の挨拶でも目でコンタクトをとっていた。2人がそこで伝え合ったのは、どのような思いだったのだろうか――。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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