古葉監督、「耐えて勝つ」の信念で日本一へ=全日本大学野球選手権

中島大輔

ベンチの端から試合を見守る理由とは!?

広島時代から変わらぬスタイルで試合を見守る東京国際大・古葉監督 【島尻譲】

 ベンチの端に身を隠し、柱の影から半身だけ見せて指示を送る。古葉竹識のトレードマークとも言える独特のスタイルには、こんな訳がある。
「ベンチの後ろの隠れたところで、選手を怒っているんだよ(笑)」

 かつて広島カープで山本浩二や衣笠祥雄、高橋慶彦を鍛え上げた名将は現在、東京国際大の選手たちを厳しく指導している。古葉の野球哲学は、広島を3度の日本一に導いた当時から、今も変わらない。人に厳しく、自分に厳しく――。
「ピッチャーの投げているボールから、今でも目を離したことはない。選手が間違ったことをしたら、いかに私が指摘できるか。指摘できないと、そのプレーを見ていないことになっちゃうから」
 6月9日、創部46年目で悲願の初出場を果たした全日本大学選手権準々決勝で好投手・辻孟彦を擁す日体大を1対0で下し、東京国際大はベスト4進出を決めた。1回戦、2回戦を延長タイブレークで勝ち上がり、日体大戦は初回の1点を守り切った。「耐えて勝つ」。選手たちが古葉の座右の銘を実践すると、満面の笑みを浮かべた老将は冗舌になった。

「カープ時代はよく、『耐えて勝つ』と言われた。選手たちは、『われわれが耐えて勝った。監督はわがままやっていただけ』って言っていたけどね(笑)」
 東京国際大の快進撃を引っ張るのは、右腕エースの伊藤和雄(4年=坂戸西高)だ。初戦から3連投し、日体大戦は8安打7四球と毎回のようにランナーを背負いながら要所を締め、166球の熱投で完封勝利を飾った。最後まで粘り切れた要因について古葉に聞くと、「だんだん涼しくなったからじゃないの(笑)?」とイタズラな目で冗談を言った。

準決勝は慶応大・江藤監督との“元プロ対決”

準決勝進出を決め、ファンの声援に応える古葉監督 【photo by 原田亮太】

 エースが見せた好投の影には、古葉の送った的確な指示があった。2回、6回、そして最終回と3度マウンドに足を運び、叱咤激励した。6回、1死二塁のピンチを2者連続三振で切り抜けると、伊藤をベンチの奥に呼んだ。
「6、7回で代えてやりたい気持ちもあったけど、代えたら伊藤に悔いが残る。そういうことはしたくない」
 指揮官に気合を注入されたエースは「最後までおれがいくしかない」と意気に感じ、ひとりで投げ切ってみせた。

 準決勝の相手は慶応大。率いるのは巨人や中日でプレーした江藤省三だ。
「そうなったら一番うれしいと思う対戦まで、うちが勝つことができた。今までやってきたことを精一杯やるだけ。気持ちだけは負けないように」
 目標は日本一と言い切る古葉の下、東京国際大が優勝候補に挑む。

<了>

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 北海道日本ハム監督・梨田昌孝「失敗から成長させる」、埼玉西武監督・渡辺久信「優しさと厳しさで寄り添う」、オリックス監督・岡田彰布「数字だけで評価しない」、東京ヤクルト監督・小川淳司「個の力をチーム力に変える」、日大三高監督・小倉全由「高い目標に挑ませる」、近畿大監督・榎本保「信頼して放任する」、東京国際大学監督・古葉竹識「自分に厳しく人に厳しく」、ホンダ前監督・安藤強「すべては信じることから」。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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