ナダル対フェデラー、“ニュー・クラシック”と題された男子決勝=全仏テニス

内田暁

“ニュークラシック”と題された決勝は攻めるフェデラー(右)と守るナダルの一戦となった 【Getty Images】

 歴史を誇り、文化を重んじ、芸術を愛する街だからだろうか? パリジャンたちがテニスに求めたのは、新旧交代劇ではなく、クラシックへの回帰であり、伝統の継続だった。
 今季無敗という記録をひっさげ、全仏オープンへと挑んだノバック・ジョコビッチ(セルビア)を誰が止めるのか? あるいは、そのまま頂点まで走り抜けるのか――?
 
 今大会最大のテーマへの関心は、準決勝のジョコビッチ対ロジャー・フェデラー(スイス)戦で頂点を迎えることになる。そしてこの試合、1万5千人のパリの観客たちは、徹底してフェデラーの側についた。フェデラーがポイントを決めるごとに歓喜の声をあげ、窮地に陥れば「ロジャー、ロジャー」の大声援で鼓舞する。そうして、ラファエル・ナダル(スペイン)いわく「現在最強の選手対、史上最高の選手」の一戦は、“現在最強”の快進撃を“史上最高”がせき止めるという形で、一つの決着を見たのだった。

フェデラーの準決勝勝利が示した意味

「ラファに、最高の誕生日プレゼントをあげられたかな?」
 今季初めてジョコビッチに勝利した元王者のフェデラーは、自嘲(じちょう)気味にそう笑う。6月3日の準決勝のまさにその日は、フェデラーの最大にして最高のライバルであるナダルの25回目の誕生日だった。

 フェデラーのジョコビッチ撃破は、いくつもの意味をその内に内包するものである。
 まずは、ジョコビッチの世界ランキング1位奪取を阻止し、ナダルの首位を延命させたこと。あるいは、ジョン・マッケンロー(米国)が持つ“シーズン開幕からの42連勝”という記録を守ったこと。もちろんフェデラー本人にとっては、実に5大会ぶりのグランドスラム決勝進出を決める勝利であった。

 一つの勝利が、ジョコビッチの一位という“未来”を押しとどめ、ナダルの王座という“今”を存続させ、そしてマッケンローの記録という“過去”を守る。

 過現未が複雑に絡まり、多くの人々の運命を相互作用する多重構造的な物語は、連綿と続く歴史の上にしか成り立ちえない。今回このような重厚なドラマが、テニス発祥の地とされるフランスで生まれたのも、決して偶然ではない何かの縁だろう。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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