新システムの鍵を握る岡崎慎司の進化=3−4−3の生命線は“左の黄金コンビ”

元川悦子

岡崎・長友を軸とした攻撃に大きな期待

左サイドの出来が3−4−3の成否を占う。岡崎が長友(写真)の良さを引き出せれば攻撃は厚みを増す 【Getty Images】

 だからこそ、新システムをいち早く理解することが肝要だ。
「3−4−3はサイド攻撃が鍵。サイドが有効にならないとやる意味がないくらい重要だと思う。スイッチを入れるのはサイドハーフの自分の役目だけど、前にいる岡崎が高い位置に行かないと攻撃に厚みが出ない。岡崎には『あまり下がらずに前に行け』と要求しています」と長友がコメントする通り、岡崎・長友という左のラインは、特に攻撃面で3−4−3の生命線になるといっても過言はないだろう。
 彼らをサポートする左ストッパーの槙野智章も「2人はすごくいいものを持っているから、そこを中心に攻めればいい。自分が相手を引きつけて、高い位置でフリーにしてあげたい」と、岡崎・長友を軸とした攻撃に大きな期待を寄せていた。

 岡崎自身もウイングとして自分がどう動くべきかを今、必死に研究しているところだ。「同じサイドのサイドハーフとかぶらないようにしないといけないんで、ポジションのことをすごく考えないといけない。サイドハーフが上がってきたら真ん中に絞る、上がってこなければサイドプレーヤーになることが必要だし、逆サイドにボールがある時は2トップの近くまで行って、トップ下のような動きもしないといけない。3トップの一角だけど、シャドーもやったり、ワイドに開いたり、2トップもやったりとかなり変化するポジション。運動量も相当、求められると思いますね」

 実に多彩な役割が求められるウイングだが、ペルー戦ではほとんどいい面を出せなかった。ドイツでの2点目を決めた14日のバイエルン戦直後に帰国して2週間、岡崎は大半をオフに充てていたという。1年半休みなしで戦ったのだから、それもやむを得ない。本人も「前へ走るパワーがなかった」と大いに反省していた。

 コンディションはここ数日の練習を経て、確実に上がっていくだろう。気になるのは、チーム内の意思疎通が不足していることだ。ペルー戦では「試合中に方向性を確認し合えなかったのが問題だった」と岡崎は指摘する。
「(試合を)やりながら話はしていたけど、お互いのやりたいことをあまり伝えられないまま終わってしまった。こんな状況のままいくと、南アの前みたいに、ずっと準備していたけど、いきなり迷い出してうまくいかないということになりかねない。チームとして危機感を持って、次の試合をやらないといけない。みんなで突き詰めていきたいですね」

長友の良さを引き出すための気配りと献身

 チェコ戦はおそらく、現状のベストメンバーで挑むことになるだろう。左サイドは長友と岡崎がコンビを組む可能性が高い。4日の練習でも、長友が積極果敢にオーバーラップし、岡崎は長友の良さを引き出すために臨機応変に動く姿が目についた。こうした気配りは渡独前の彼にはなかったものだ。
「3−4−3の場合、動き出すのはサイドハーフ。ウイングはそれに合わせた動きをしないと。やっぱり攻撃面で一番意識しないといけないのは同サイドで連動すること、FWに近い位置で動くことですかね。守備もおれたちがサイドをうまく限定することが大事。相手のボランチがフリーで受けたら行って、またサイドバックに振られたら行ってという状況も出てきて、かなりきついだろうけど、それをやらなければ守備がうまくいかない。とにかく早く実戦をやりたいです」

 ロシツキー不在とはいえ、3月にはユーロ(欧州選手権)2012予選で世界王者・スペインに善戦したチェコが相手となれば、主導権を握れる時間は少ないだろう。そういう時こそ、縦関係にいる長友や先発が有力視されるFW李忠成ら周囲のメンバーたちと積極的にコミュニケーションを取り、修正を図っていく必要がある。長谷部誠や今野泰幸、長友とほぼ同じ40試合超のキャップ数を誇る岡崎には、これまで以上のリーダーシップが求められる。

 ザッケローニ監督は「ペルー戦であれぐらいのリアクションということは想定内。チェコ戦でもシステムが機能することではなくて、前回よりも良くなっていることを期待したい」と3−4−3の習得を長期戦でとらえている。だが、世界トップを狙うにはむしろ、想定外の急成長があった方がいい。岡崎・長友の“左の黄金コンビ”を筆頭に、世界を知る選手たちはその急先鋒(せんぽう)となれるか。その双肩にかかる期待は大きい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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