新システムの鍵を握る岡崎慎司の進化=3−4−3の生命線は“左の黄金コンビ”

元川悦子

主力と新戦力では戦術理解度、目標設定に差

人材がそろうウイングはポジション争いが激しく、実績ある岡崎も安泰ではない。ドイツで成長したところをプレーで証明したい 【Getty Images】

 今回のキリンカップ2試合は1月のアジアカップ優勝から4カ月ぶりの国際Aマッチだ。安田理大や西大伍、宇佐美貴史ら新戦力も加わり、チーム全体の底上げが大きな狙いとなっている。ザッケローニ監督も「全員が同じ絵を描けるチームにするのがわたしの最大の目標」と語り、3−4−3の新システム浸透に強い意欲を示している。

 ところが、1日のペルー戦では日本の最大の長所である連動性を欠いてしまった。新戦力数人がスタメンで出場したことでコンビがギクシャクしたのに加え、国際試合で初めてトライした3−4−3の難しさも重なり、チーム全体が5バック気味になって攻撃への迫力が出なかったのだ。
 3−4−3は昨年12月末の堺合宿で初めて導入され、3月のチャリティーマッチでも試されている。とはいえ、選手個々の経験値によって理解度に差があるのは、やはり事実だ。

 堺合宿からコンスタントに参加している吉田麻也は、「僕らストッパーはなるべく早く外にスライドしてサイドの選手を高い位置に行かせて、ボールを奪ったときに大伍君やウッチー(内田篤人)がボールに絡めるようにするのが仕事」と明確にポイントをつかんでいた。内田も「スタートは僕ら(サイドハーフ)のところ。起点がないと始まらない」と、自分の役割をハッキリさせている様子だった。
 逆にペルー戦で初出場した西は「僕らは後ろの声で動くんで。コンビの問題もあったと思う」と反省しきりだったように、チームに慣れる段階の選手たちは困難なハードルに挑まざるを得ない状況と言える。

 現段階ではこうした戦術理解の差に加え、選手個々の目標設定にもバラつきが生じ始めているように見受けられる。長友佑都や内田はこの半年間で世界のトップに手が届く場所までたどり着き、2014年ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会での目標をより高く持っている。「圭佑(本田)とも話しているけど、誰が出ても監督が求めているサッカーを体現できないとW杯の上位には行けない」と長友も強調する。だが、代表経験の少ない選手は、自身のチーム定着のことで精いっぱい。世界の頂点を狙うレベルまで考える余裕はないというのが本音ではないだろうか。

 いかにチームの方向性を一致させ、短期間でW杯上位躍進への足掛かりを築いていくのか。ザックジャパンは今、大きな転換期を迎えている。

レギュラーを勝ち取るも、ライバル多く危機感は強い

 そんな中、主力の1人である岡崎慎司も個のレベルを高めようと躍起になっている。1月にシュツットガルトへ移籍し、直後から試合に出続けたものの、とにかくゴールが遠かった。ドイツ初得点が出場13試合目の5月7日、ハノーファー96戦までズレ込むとは、本人も予想もしなかったに違いない。
「裏一点張りっていうのも今までは悪くなかったけど、自分が裏ばかり狙うと味方が消えることもある。逆に足元で受ければ、味方が生きることもあると分かった。単純に裏ばかりだと相手も対応してくるんで、ワンタッチではたいてすぐに出ていくとか、足元で受けながらリズムを作るとか、状況に応じて工夫しながらプレーを変えられないと厳しい。その重要性を学びましたね」と、全力を注いだドイツでの4カ月間に思いをはせる。

「世界との壁」という意味では、彼はすでにW杯・南アフリカ大会直前に厳しい現実を突きつけられた経験がある。09年には代表で15ゴールを挙げ、世界得点ランキング1位に選ばれるなど、岡田ジャパンのエースに君臨した岡崎だが、1トップでは結果が出せず、W杯直前にスタメンから外された。その後、ウイングに回ったものの、本大会ではあくまで松井大輔、大久保嘉人というベテラン2人の控えにとどまった。デンマーク戦で1点を挙げても「成功したのはスタメンで出た選手だけ。W杯は悔しい思い出しか残っていない」と言い切り、悔しさを吐露するしかなかった。

 ザックジャパンでも絶対的地位を保証されているとは言い切れない。新体制初戦のアルゼンチン戦もサブからのスタートだった。大一番で決勝点を奪ったにもかかわわらず、アジアカップ初戦のヨルダン戦では再び先発から外れた。こうした逆境を自らのゴール量産で跳ね返し、チームをアジア王者に押し上げるとともに、レギュラーを勝ち取ったが、依然として危機感は強いようだ。

 ザッケローニ監督がこだわりを持つ3−4−3は、ウイングのポジションが2つしかない。この位置を担う人材としては、まず本田圭佑と今回招集免除となっている香川真司のエース級2人がいる。加えて、指揮官がペルー戦であえてテストした長友も有力候補の1人だ。それ以外にも、ペルー戦でアピールした関口訓充、今夏のバイエルン・ミュンヘン移籍がうわさされる宇佐美貴史、いずれA代表に名乗りを上げると見られるフェイエノールトの宮市亮と楽しみな選手がそろっており、実績ある岡崎といえども全く安泰とは言えない。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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