「新世代・男子新体操」の変革期=ドラマ『タンブリング』のリアルな世界

椎名桂子

ジュニアクラブ育ちの新世代

男子新体操の世界にドラスティックな変化が起きている 【小林隆子】

「男子新体操が今、熱い」
「高校生たちが、すごいことになってる」
 男子新体操は、実際に演技を見たことがある人のほうが圧倒的に少ないであろうマイナーなスポーツなのだが、その狭い世界の中で、今、ドラスティックな変化が起きている。
 数年前までの男子新体操界では、高校生になってから競技を始める選手も多く、現在、大学生で活躍している選手でも元柔道部、元陸上部、という経歴だったりする。それでも競技人口の少なさで、ちょっと素質のある選手ならば、上位にいける競技だった。

 ところが、最近、かなり様子が変わってきている。各地にジュニアクラブが立ち上がり、ジュニアのころから男子新体操をやり、遅くとも「中学で始めた」という選手が増えてきたのだ。その結果、高校生のレベルが飛躍的に上がってきている。それもトップ選手だけでなく、底が上がってきたのだ。

レベルアップにともない音楽に合わせた動き、表現も年々向上してきている 【小林隆子】

 彼らの演技は、男子新体操の代名詞でもあるタンブリング(バック転や宙返り)がダイナミックで素晴らしいだけでなく、手具操作も巧みで工夫され、マジックかジャグリングを見ているようでもある。さらに、音楽に合わせた動き、表現も年々向上してきている。多分、一度見れば、「なんとまあ素敵なスポーツか」と思わせるものが男子新体操にはある。そして、高校生においてもそのレベルに達してきていたのだ。

 5月27〜29日に行われた「第9回ユースチャンピオンシップ」でも、それは顕著だった。ユースチャンピオンシップに男子の部が設けられたのは、2008年の第6回からだが、初代チャンピオン・小林翔(当時・青森山田高校)の4種目合計点は36.175。今大会なら5位に相当する得点だ。また、8位入賞者の得点34.275は、今大会なら20位になってしまう。これはすごいことだ。

最強チャンプ・臼井優華の存在感と影響力

今大会でユース2連覇を成し遂げた臼井優華 【小林隆子】

 この流れを決定づけたのは、今大会でユース2連覇を成し遂げた臼井優華(済美高校)だと言っていいだろう。臼井は、中3のときに全日本ジュニアでも優勝しているが、ジュニアチャンピオンになったころから、ジュニア離れした高度な技術をもっていた。
 臼井のすごさは、タンブリング、手具操作、実施の美しさがバランスよく揃っているところだ。まだ高校生だが、「ここが惜しい」という欠落した部分がない。臼井に限らず、ジュニアから新体操をやっている選手たちには総じてそういう強みがある。臼井の演技は、「高校生だからここまで」という限界にとらわれていない。

1年前は「力強さはあるが、やわらかい表現や美しさはまだまだ」と言われていた臼井も深みのある表現を習得 【小林隆子】

 やればできる!
 それを体現する選手が現れたことで、全体のレベルは目に見えて上がってきた。高校生から新体操を始めた選手が、大学に入ってやっと到達していたレベルに、高校生の段階でみんな届き始めているのが現状なのだ。

 もっとも、男子新体操は「芸術スポーツ」だ。ただ、技術が高ければそれでいいのかと言えば、そうではない。表現力、自分の演技でなにかを伝える力がなければ、高い評価は得られない。そして、その部分ではやはり大学生に分がある。ただ、技術が早くから熟練していれば、演技にも余裕ができ表現の工夫もできるようになる。現に、臼井も、1年前は「力強さはあるが、やわらかい表現や美しさはまだまだ」と言われていたが、今年は見違えるように深みのある表現を見せられるようになっていた。

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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