錦織圭が全仏オープンで示した現在地=トップ50からさらなる躍進へ

内田暁

1回戦で世界ランキング56位のルー・イェンスンに勝った錦織だが、2回戦では36位のスタコブスキーに敗れた 【写真:ロイター/アフロ】

 世界ランキング56位のルー・イェンスン(台湾)にストレートで勝利し、36位のサージー・スタコブスキーに1−6、6−3、3−6、6−7(3−7)で惜敗――。この2試合から成る全仏オープンテニスの成績は、錦織圭(ソニー)の現在地を物語っているように思う。

 全仏のクレーコートという特性、さらに選手間の相性もあることを百も承知の上で少々乱暴に言ってしまえば、50位前後の選手にはかなりの確率で勝つことができ、30位前後の選手とは同等レベルの試合が可能……ということだ。さらに、今年1月に14位のマリン・チリッチ(クロアチア)、そして4月には11位のマーディ・フィッシュ(米国)を破ったことを考えれば、その日の調子やサーフェス次第では、10位前後の選手を破る力も十二分に持っていると言えるだろう。
 もっとも今大会は、大会直前に腎臓結石と疑われるほどの腹痛に襲われ、一週間はラケットをまったく握れない状態が続いた(実際は、胃酸過多により胃が荒れたための腹痛)。
「一週間前は、全仏には出られないだろうと思っていた」という状況を考えれば、今大会の成績は評価に値するし、「事前の準備が万全だったなら……」との期待を抱かずにもいられない。

日本人最高ランキングにも「そこまでの達成感はない」

 5月上旬、錦織は松岡修造が持つ、日本人最高ランキングの46位に達した。錦織が拠点とするニックボロテリー・アカデミーでは数年前から、コーチやトレーナー達から成るチーム錦織を、“プロジェクト45”と呼んでいたという。これは、錦織を日本人最高の45位に到達させようとの目標からであり、それほどまでに錦織や周囲のスタッフにとり、日本人最高位とは大きな意味を持つ言葉だった。その目指す数字にはまだ一つ足りないが、錦織本人も「ずっと修造さんを目指していた。並べたのはひとつの目標を達成できたということで、うれしい」と、幼い頃から指導を受けた師に肩を並べたことを、素直に喜んだ。

 その一方で、「正直、そこまでの達成感はない。これからもっと上がりたい」と、貪欲に上を狙う気持ちも口にしている。
「けが無くプレーが続けられれば、年内50位以内は、確実に行けると思っている」。
 特に気負うでも色めき立つでもなく、さらりとそう言い切る自然体の自信も、先述した“現在地”を考えれば、当然だろう。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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