代表への扉を閉ざされたテベス=バティスタがアルゼンチン代表に招集しない本当の理由

代表における立場を揺るがす決定的な事件

バティスタ監督(写真)はテベスを構想外としているが、大多数の国民が代表復帰を望んでいる 【写真:ロイター/アフロ】

 当時、テベスはバティスタが招集するレギュラーメンバーの大半から拒絶されていたと言われていた。なぜなら、彼らはテベスがコーチ陣から良く思われていなかったことを知っていたからだ。また、リオネル・メッシが世界一の選手であるという理由であらゆる注目を集める傍ら、自身の存在が重視されない現状をテベスの方が快く思っていなかったという見方もあったが、それらのほとんどはメディアの推測でしかなかった。

 ところが2010年12月、テベスの代表における立場を揺るがす決定的な事件が起こる。この時、彼はけがを理由にカタールで行われたブラジルとの親善試合の招集を辞退したのだが、その前後に行われたプレミアリーグの2試合では問題なくプレーした。この出来事を境に、バティスタのテベスに対する興味は完全に失われたのだった。
 それ以来、今日に至るまでテベスは二度と代表に呼ばれなくなった。加えてバティスタはテベスの構想外を正当化する良い口実を見つけるに至った。

 バティスタはテベスをセンターFWとみなしているが、彼のポジションにはリオネル・メッシが君臨し(バティスタはバルセロナと同じシステムを採用している)、ベンチにはゴンサロ・イグアインとディエゴ・ミリートが控えている。しかもバティスタは、ボカ・ジュニアーズ時代のテクニックに優れたテベスを求めている。それは、彼が7年も前に変えてしまったプレースタイルである。

 以前より荒削りでパワーが増し、戦える選手となった今日のテベスは、現在のアルゼンチン代表のプレースタイルにはそぐわないとバティスタは言いたいようだ。昨年9月、スペインを4−1で破ったブエノスアイレスでの親善試合では、左ウイングとして素晴らしいプレーを見せたにもかかわらずである。

招集を望む国民、人気はメッシを上回るほど

 こうしたバティスタの口実には、個人的な問題を持ち出すことなくテベスの構想外を正当化するだけの説得力がある。バティスタがボカ時代(2001〜04年)のテベスを望んでいる以上、7年前とは異なる選手となってしまったテベスが時間を巻き戻すのは不可能である。また、テベスはセンターFWとしてプレーすべきとバティスタは考えている。しかし、同ポジションには不動のレギュラーであるメッシがいる……すべては代表への扉がほぼ閉ざされたことを示している。

 こんなうわさもある。今年2月、バティスタのアシスタントコーチを務めるホセ・ルイス・ブラウンらアルゼンチン代表のコーチングスタッフがテベスのもとを訪れたが、両者の話し合いでは何ひとつポジティブな結論が得られなかった。彼らはこれ以上、テベスを呼ぶ必要はないという意思を固めて帰路についたという。

 テベスは現在、コパ・アメリカ出場に向けて代表への復帰を訴え、「必要ならメッシの控えとなることも受け入れる」とまで公言している。一方で、バティスタはテベスの構想外を戦術的観点から正当化し続ける反面、メッシと同ポジションでプレーするベレス・サルスフィエルドのウルグアイ人FWサンティアゴ・シルバに対し、アルゼンチン国籍を取得した際には代表チームの一員として受け入れる可能性を示唆している。

 コパ・アメリカの開幕が近付いている今、大多数のアルゼンチン国民、そしてあらゆるアンケートの結果がテベスの招集を望んでいる。その人気はメッシを上回るほどだ。バティスタもここに来て、電話を通してテベスと話し合い、「いくつかの点をはっきりさせるつもりだ」と宣言している。

 コパ・アメリカを前に、今後テベスの状況はどうなるのだろうか。プレミアリーグのスターとしてあらゆるタイトルを獲得し、レアル・マドリーやインテルの熱視線を受けているが、明るい未来が待っているようには見えない。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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