クルム伊達、深まる苦悩とその先のチャレンジ=全仏オープンテニス

内田暁

世界ランキング1位のウォズニアッキに完敗を喫したクルム伊達 【写真:ロイター/アフロ】

 全仏オープンテニス第2日(23日)に行われた女子シングルス1回戦。ナンバー1コート(会場で3番目に大きなコート)で行われるはずの試合が急きょ変更となったため、クルム伊達公子(エステティックTBC)は実に16年ぶりに、センターコートの赤土へと足を踏み入れた。全仏オープンは、昨年から今年にかけ会場移設が検討されてきたが、結局は現状維持に落ち着いたのも、このセンターコートの威光があればこそ。1928年からローランギャロスの要として存在感を放つスタジアムは、今後さらに何十年も、その役割を担っていくことが決まったばかりだ。

 だが、それほどの歴史と伝統を誇るコートに帰還したにも関わらず、伊達には、感傷にひたるヒマも余裕もまったくなかった。相手は、今大会第1シードのキャロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)。試合が始まった時、19時を回っていたにも関わらず青々と澄んだパリの空は、試合が終わった時にも、さほど暗さは感じなかった。0−6、2−6のスコア。試合時間は1時間。「今は自分の調子が悪く、相手がどうこうというのを見る余裕がなかった」という本人の言葉は、復帰4年目を迎える40歳の、現在地点と苦悩をそのまま表している。

「これはスランプなのでは」

 伊達の、今シーズンのここまでの成績は3勝13敗(予選含む)。特に、以前から最も苦手意識の強いクレーコートのシーズンに入り、伊達は悩みをさらに深めている。
「クレーでの課題を語りだしたら、1時間はかかってしまう」と言うほどにそれは深刻で、「長いテニス人生で、ここまでフィーリングが悪いことはなかったのでは」と思いつめるまで、ラケットがボールをとらえる感覚が失われている。「これはスランプなのでは……」彼女は現状を、そう言い換えた。

 そうは言いながらも、この日のウォズニアッキ戦でも随所に、伊達らしさを見ることはできた。オープニングポイントは、鮮やかなボレーだった。クレーで効果的なドロップショットや、豪華なスマッシュを決めて客席を沸かす場面も幾度もある。ウイナーの数では、むしろ相手を上回った。だが世界1位はミスをせず、精神的に乱れることも一切無く、高く弾むボールを深く深く打ち返していく。そのような展開になったとき、どうしても先にエラーをしてしまうのは、伊達の方だった。「復帰前のキャリアを含めても、記憶にない」という初戦での第1シードとの対決は、今の状態を考えれば、あまりに過酷すぎる試練である。

1/2ページ

著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント