クルム伊達、深まる苦悩とその先のチャレンジ=全仏オープンテニス
世界ランキング1位のウォズニアッキに完敗を喫したクルム伊達 【写真:ロイター/アフロ】
だが、それほどの歴史と伝統を誇るコートに帰還したにも関わらず、伊達には、感傷にひたるヒマも余裕もまったくなかった。相手は、今大会第1シードのキャロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)。試合が始まった時、19時を回っていたにも関わらず青々と澄んだパリの空は、試合が終わった時にも、さほど暗さは感じなかった。0−6、2−6のスコア。試合時間は1時間。「今は自分の調子が悪く、相手がどうこうというのを見る余裕がなかった」という本人の言葉は、復帰4年目を迎える40歳の、現在地点と苦悩をそのまま表している。
「これはスランプなのでは」
「クレーでの課題を語りだしたら、1時間はかかってしまう」と言うほどにそれは深刻で、「長いテニス人生で、ここまでフィーリングが悪いことはなかったのでは」と思いつめるまで、ラケットがボールをとらえる感覚が失われている。「これはスランプなのでは……」彼女は現状を、そう言い換えた。
そうは言いながらも、この日のウォズニアッキ戦でも随所に、伊達らしさを見ることはできた。オープニングポイントは、鮮やかなボレーだった。クレーで効果的なドロップショットや、豪華なスマッシュを決めて客席を沸かす場面も幾度もある。ウイナーの数では、むしろ相手を上回った。だが世界1位はミスをせず、精神的に乱れることも一切無く、高く弾むボールを深く深く打ち返していく。そのような展開になったとき、どうしても先にエラーをしてしまうのは、伊達の方だった。「復帰前のキャリアを含めても、記憶にない」という初戦での第1シードとの対決は、今の状態を考えれば、あまりに過酷すぎる試練である。