東レアローズが追い求めた「最高のバレー」=黒鷲旗・全日本男女選抜大会<男子>
速さとのギャップ
全日本選抜バレー最終日、堺を破り優勝を決め、抱き合って喜ぶ東レの選手ら=大阪府立体育会館 【共同】
最高のバレーを追求してきた。
パス、サーブ、スパイク、プレーのすべての質を高め、思わず顔をしかめてしまうようなつまらないミスは出さない。誰もが「見てよかった」「また見たい」と思えるような、最高のスタイルを追い求める。
それが、東レアローズのバレーだ。
秋山央監督が就任2年目を迎えた今シーズンも、その信念にブレはない。
そして、追い求める1つの形をより明確にするために、今シーズンはこれまで以上に「速さ」にこだわった。相手のサーブをレシーブするボールも速くセッターに返し、そこから素早くトスアップ。当然アタッカーもその速さに合わせて動き、速いトスを打つ。そのイメージで、チームの形を作り上げようとしてきた。
だが、求めるはずの速さとのギャップが埋まらぬように、試合の結果も伴わない。Vプレミアリーグ中盤に、それまで無敗だったFC東京に1−3で敗れたのを契機に、選手間で自発的に話し合う機会を設けた。
セッターの阿部裕太はもともと高い位置でのトスアップを得意とする選手であり、速さを求めすぎて低くなっては、せっかくの利点が生かしきれない。連動してアタッカーの打点も低くなってしまうから、なかなか得点が得られないのではないか。パスを送り出す側、トスを出す側、スパイクを打つ側、それぞれの立場から意見をぶつけ合った結果、すべてのスピードアップを求めるのはそぐわないのではないかという結論に至った。
速さよりもまず、互いの利点を生かせるよう丁寧にパスを返し、そこから高速コンビバレーを展開する。ようやく形の一片が見え始め、手応えを感じた頃に、東日本大震災に見舞われ、リーグの中止が決定した。
『これがうちのバレーだ』
そのために必要なことは何か。秋山監督が掲げたのはパスとサーブの正確性を徹底すること。実にシンプルなようだが、練習でも常に成果と質が求められる。特にジャンプフローターサーブを打つ選手に対しては、特に細かく目標を設定し、コートの前、後ろ、明確なポイントを指示され、その場に打てなければ何本でもやり直し。5本連続、10本連続、決められた数を達成できるまでは、練習は延々と続いた。
最後の選手にOKが出るまで、全選手が体育館から帰らない。厳しい練習は、自然とチーム力をも高めていた。
自信とともに迎えた黒鷲旗決勝戦で、その成果はいかんなく発揮された。
対戦相手の堺ブレイザーズは石島雄介、北島武に代表される強烈なサーブを武器にする。相手の思惑にはまらないよう秋山監督はサーブレシーブを重視し、米山裕太と田辺に加えて越谷章をスタメンに起用。ジャンプサーブは3人で分担し、フローターサーブは越谷が処理することで米山の負担を軽くする。追い込まれた状況でもサーブで揺さぶりをかけて、レシーブやリバウンドでつなぎ攻撃力のあるボヨビッチや米山に託す。
1、2セットをともに22−24、20−24と劣勢から鮮やかな逆転で制すると完全に主導権を握り、第3セットは堺を圧倒。米山のライトからのスパイクで25点目を挙げ、5年ぶりに王座を奪還した。
喜ぶ選手たちの中で、ひとり、号泣した越谷がこう言った。
「ちっちゃいチームが大きいチームに勝つために、粘って拾って、何とか点数取って。みんなが一生懸命つくりあげてきた、『これがうちのバレーだ』と思ったら泣けちゃって」
ようやく手にした結果に安堵したのは、秋山監督も同じだ。
「これまでは選手の頑張りが結果に届かず歯がゆい思いでした。こうして結果として証明できたことを、選手たちに心から『よかったね』と言いたいです」
最高を求めたシーズンを、最高の形で終えた。もちろん、新たなシーズンも、また一段高いステージと「最高のバレー」を追い求める。
<了>
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