差別かクソか
ネット上で2枚の写真が掲載されて話題になっている。1958年と2008年のフランス代表メンバーを並べたものだ。58年の方は全員が白人、08年は全員が黒人である。ある者は人種差別目的でこの比較写真を使い、ある者は微妙なジョークのネタにした。実際には、この50年間に人口構成と代表選手選抜に大きな変化があったということだ。
58年のメンバーを注意深く見てみると、外国からの移民がいることに気づく。カシミール・ナトフはウクライナ人の両親を持ち、マリアン・ビシニエスキはポーランド人、このチームのスターだったレイモン・コパもそうで、彼の本名はコパゼフスキである。ただ、写真に写っている選手は全員白人で、見た目はフランス生まれのフランス人だ。60年代に植民地政策が終わり、フランスに移民が増加して人口構成が変化した。かつてのヨーロッパ移民(イタリア、スペイン、ポーランド)から、アフリカ移民が主流になっていった。コパの両親が息子にフランス人の名前をつけたのは、その方がフランス社会で生きやすいと考えたからだ。プラティニの両親もイタリア風のミケーレではなくミッシェルを選択した。
しかし、20年が経過すると、ジネディーヌ・ジダンの両親は息子にフランス風の名前をつけていない。単に肌の色が変わっただけでなく、フランス代表にはもっと根本的な変化があった。98年ワールドカップ(W杯)・フランス大会で優勝した多人種構成のチームは、多民族社会の象徴として政治家たちによく利用されたものだ。新しいフランス社会のポジティブな象徴として。だが、数週間の熱狂が過ぎ去った時、人々は多民族社会の問題が何ひとつ解決されていないことに気づいた。
さて、FFFが人種枠を設けようとした理由は何だったのだろう。黒人とアラブ人をアカデミーから減らそうとしたのはなぜか。いくつかの理由がある。その中で、最も明快なのは人種差別主義だ。ドイツ、イタリア、イングランド、スペインはほぼ純血主義が保たれているが、フランスはそうではない。移民の方が多い。勝っているうちはいいが、負け始めるとそれに我慢がならない人々がいる。実際には、勝っていても我慢できない人もいて、極右政党のジャン=マリー・ル・ペンは98年大会のチームを批判した当時、唯一の人物だった。国の代表チームにしては移民が多すぎると批判したのだが、13年前に彼の意見に同意する人は1%以下だった。しかし、昨年のW杯でフランスがグループリーグで敗退し、さらに大会中のストライキや内紛など、恥さらしな結果に終わったことで、かつてとは人々の意見も変わってきている。
育成年代において、フィジカル・スキルはかなりの影響を与える。簡単に言えば、12歳のチームの中に大人同然の体格と運動能力を持つ少年が1人いれば、テクニカル・スキルに優れた相手チームを破るのはそう難しくない。すべてのコーチはその事実を知っている。そのため、強い意志と賢さをもって子供のチームを指導していくコーチは、地方レベルでは珍しい存在になってしまっている。ナショナル・アカデミーでは、いっそう事態は深刻だ。政府はほかのスポーツアカデミーにも資金の供与をしているが、資金の多少は成績によって決められている。国際試合に勝つことは、名誉の問題だけでなく、予算に直結するのだ。
2001年にトリニダード・トバゴで行われたU−17世界選手権(現U−17W杯)で、スペインもアンドレス・イニエスタも注目されなかった。この大会で優勝したのはフランスだったが、イニエスタよりも大成した選手など誰もいない。協会内部の調査によると、フランスのプロ選手の3分の2が1月から6月までの生まれなのだそうだ。というのも、アカデミーのテストは5月か6月に行われる。十代では、半年でも早く生まれている方がフィジカル面で優位なのだ。
FFFの真意は分からないが、一石二鳥を狙っているように思える。ユース年代でのフィジカル要素を少なくすること、そして将来のフランス代表の人種的なバランスを変えること。ほかに理由として、アフリカ系の選手を育てても、彼らがフランス代表ではなく両親の国の代表選手になってしまうからというのもある。ただ、これは本当の理由ではないだろう。そうした危惧(きぐ)があるのは確かだが、さほど深刻な問題ではない。選手の多くはフランス代表を望んでいて、それが難しい場合にルーツ国の代表を選ぶケースがほとんどだからだ。また、アフリカの代表を選んで、長年プレーした選手もディディエ・ドログバぐらいしかいない。むしろ、フランス代表の方が恩恵を得ている。ダビド・トレゼゲの例がそうだし、ドメネク前監督はイグアインをフランス代表にしようとしていた。
現在、インターネット上にリークされた情報がフォローされ、今回の事件の真相が取りざたされている。それにしても、FFFの誰が何のためにリークしたのかも話題になっている。
<了>
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