松田直樹、JFLで見つけた希望と責任=松本山雅をJ1へ導くために
J2昇格最有力候補ながら開幕戦は逆転負け
松本山雅は長野との“信州ダービー”で逆転勝利。松田(右から2人目)加入の効果もあり、スタジアムには1万1663人が詰め掛けた 【宇都宮徹壱】
ところが、24日の開幕戦、ブラウブリッツ秋田戦で、彼らはまさかの逆転負けを喫した。前半のうちに木島の実弟・徹也の先制点が決まり、松本山雅には余裕が生まれた。だが、後半に足が止まって2失点。最も注意すべきだった昨季JFL得点ランキング2位の松田正俊に決勝点をたたき込まれたのだ。JFLの舞台に初めて立った松田も「正直、前半は楽だなと思ったけど、それが裏目に出た。負けたのはオレのせい。このリーグはナメたら絶対に勝てない」と厳しい現実に直面した。
初戦黒星でJ2昇格最有力候補は大きなプレッシャーにさらされた。JFLという未知なるリーグに対し、松田自身も不安と脅威を一段と強く感じたようだ。しかも2戦目はホームでのAC長野パルセイロ戦。全国リーグ初の“信州ダービー”ということで地元は試合前から大いに盛り上がっていた。
松本と長野の因縁深い“信州ダービー”
1978年のやまびこ国体で開会式を松本、閉会式を長野で実施したり、松本に空港を作った後は長野に新幹線を通すなど、長野県では政治も常にバランスを求められてきた。複雑な要素が絡み合ったこの一戦を「日本で唯一のリアルダービー」と言い切る学者さえいる。
それだけに県内での注目度は際立って高く、30日の松本平広域公園総合球技場(アルウィン)は1万1663人もの観客動員を記録した。この数字は前日のJ1・柏レイソル対ヴァンフォーレ甲府戦の1万319人を超えており、3部リーグとしては驚異的である。
松本山雅の大月弘士社長は「ダービーの盛り上がりも大きいが、松田加入の効果も否定できない。『元代表選手がいるなら、一度見にいってみようか』というファン、特にお年寄りの方が多かった。今季は3億15000万円の収入目標のうち、入場料と物販で1億2300万円を稼ごうと考えているが、彼はこの数字にも貢献してくれると思う」と分析していた。松田効果も重なって熱心なサポーターが結集してくれたことで、松本山雅の選手たちも大いに闘争心をかき立てられたはずだ。
吉澤監督は秋田戦の4−4−2から今季のベースである3−5−2に戻した。「3バックは松田ありきの布陣」と指揮官が言うように、彼を最終ライン中央に据えることで堅守を構築しようとしている。JFL1年目だった昨季は序盤戦の大量失点が最終的に命取りとなった。ゆえに今季こそ失点の少ないチームを作りたいのだ。
一方、柏などで活躍した薩川了洋監督が指揮を執る長野は4−4−2。U−16代表として内田篤人らと2004年のAFC U−17選手権(当時)を戦った経験のあるDF大島嵩弘、03年ワールドユース(現U−20ワールドカップ)のメンバーだったFW宇野沢祐次を擁して、人とボールが動くパスサッカーを志向する好チームだ。今季JFL初参戦ながら、開幕のジェフリザーブズ戦を4−0で圧勝。最高のスタートを切っていた。