テリーの代表キャプテン復帰と悩ましい余韻=東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

イングランドにたち込めるもやもやとした空気

ウェールズ戦でイングランド代表キャプテンに復帰したテリー 【Getty Images】

 スリー・ライオンズことイングランド代表にとって、本来であれば“波風”の立ちようもない、今回のインタナショナル・ウィークだった。ユーロ(欧州選手権)予選のウェールズ戦勝利はほぼ“鉄板”、ガーナ戦はもとより間に合わせのフレンドリー。実際、結果を見ても前者は形の上で快勝、後者はフレンドリーの名にふさわしい引き分けに終わっている。

 スティーヴン・ジェラードの不在は、いまやリオネル・メッシすらかすむ(?)時の人、ウェールズ代表ギャレス・ベイルの欠場でプラスマイナス・ゼロ(いや、むしろイングランドにとっては“おつり”がきたか)。その、ジェラードのいない中盤センターをランパードとともに受け持ったスコット・パーカーとジャック・ウィルシャーの急造コンビは、今後に期待を抱かせた。右ワイドに抜てきされたアシュリー・ヤングは、事実上のマン・オヴ・マッチに等しい貢献度を見せた。
 また、そもそも新監督に収まって間もないギャリー・スピードは、指揮を執る初公式戦となるこのゲームを「新生ウェールズの出発」と位置づけ、「ブラジルの地(2014年ワールドカップ本大会)を目指す第一歩」と公言、ほとんど勝負を度外視していた節がある。

 果たして試合自体は、前半に2点を奪ってほぼ勝利を確定させたイングランドを、後半のウェールズが互角以上に渡り合ってむしろ優勢を築くという、どちらにもそれなりの収穫をもたらす“理想的”な展開内容だったといっていいだろう。
 それなのに、イングランド・サイドにたち込めるもやもやとした空気、今後に引きずりそうなしこりに似た後味を感じるのはなぜか。その原因はほぼはっきりしている。ジョン・テリー(JT)の、どこか唐突の感を否めない、キャプテン復帰の悩ましい余韻――。

“哀れ”なファーディナンド

 例えば、ユーロ2012本大会終了後(予選敗退の場合はむろんその時点)の“勇退”を決めているファビオ・カペッロの後を継ぐ最有力候補、ハリー・レドナップ(スパーズ監督)は、こう述べている。
「JTのリーダーシップには何の異論もない。が、どうしてこのタイミングだったのか。どうせなら2月のフレンドリー(対デンマーク)で再指名しておけば、まだしもだったのに」

 デンマーク戦では今回同様、リオ・ファーディナンドとジェラードの故障欠場を受けて、フランク・ランパードがキャプテンマークを巻いた。ランパードが途中交代した後は順次ギャレス・バリー、アシュリー・コールにそれが手渡された。明らかに形式的な一時しのぎであり、この“たらい回し”には深い意味などないと誰もが納得、いや軽視した。
 実際、ランパードはこの措置に驚き(彼は長期間の故障明けだった)、“本番”のウェールズ戦には「起用されないかもしれない」と半ば覚悟していたほどだ。あるいは、せめてカペッロがデンマーク戦で「キャプテン・ランパード」を90分間貫いていたら、話はまったく違っていただろう。こうしてランパードは、ウェールズ戦直前まで、割り切れない疑心暗鬼に身もだえすることになってしまう。

 誰よりも“哀れ”なのはファーディナンドだった。もちろん本人は故障で出場がかなわなくなることに責任を感じつつ、何らかの決断がなされるのもやむを得ないと腹をくくっていただろう。たとえ、それが「JT復活」であっても監督の意思をしかるべく尊重する用意はあったはずだ。ところが、彼は結果的につむじを曲げてしまった。

 スリー・ライオンズのキャプテンを務めることは、仮に非公式戦、フレンドリーであろうと、あるいは単なる一時しのぎ人事であろうと、イングランド出身プレーヤーにとっては紛れもなく至高の名誉である。半信半疑だったランパードも、後にガーナ戦でキャプテンに指名されたバリーも、その喜びを素直に謳(うた)っている。だからこそ、カペッロはきわめて慎重にこの問題を処理しなければならなかった。にもかかわらず、例の“たらい回し”に輪をかけて、彼は致命的な“手順前後”を冒してしまう――。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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