世界で活躍する選手を育てるために=Jリーグアカデミーダイレクター研修に密着

鈴木智之

「アカデミーはADの器以上にはならない」

視察後、テクニカルレポートを執筆するADたち。Jリーグと協力しながら、世界で活躍する選手の育成を目指す 【鈴木智之】

 研修プログラムの最初は参加者同士でグループディスカッションを行い、NEXT GENERATION MATCH U−18Jリーグ選抜vs日本高校サッカー選抜と富士ゼロックス・スーパーカップの視察を経て、さっそく前者の試合についてのテクニカルレポートの執筆。その後は講師を中心に、レポートの書き方についてレクチャーを受ける。

 研修の講師を務める本間浩輔は、野村総合研究所を経てヤフージャパンに勤務するビジネス畑の人物だ。ADが事前に提出したレポートに対して、本間からは「このレポートはいきなり両チームのフォーメーション図から始まっています。僕なら読む気が起こりません。レポートはなんのため、誰のために書くのか。そこを意識していれば、構成や見せ方が変わってくるはず」と手厳しい意見が飛ぶ。
 そのたびにADは真剣な表情で、ノートにペンを走らせる。書き上げたばかりのレポートに対しては、『テクニカルライティング』(※目的あるいは読者対象に応じて技術を的確かつ分かりやすく文書に表すための知識と手法の体系)の視点から解説が行われ、ADたちはパソコンのキーボートをたたいて修正を繰り返す。

 3時間みっちりと、読み手に伝わるレポートの書き方や構成の作り方などについて指導を受け、朝9時から始まったプログラムの初日が終了。ADたちの顔には少しの疲労と達成感がにじんでいた。

 ADはこの研修で何を感じたのか。帰り支度をしている、大宮アルディージャの中村順に声を掛けた。
「われわれの立場になると、批評されたり、指摘されることが少ないことに気付かされました。なおかつ、もっと学ばなければいけない立場にあることも再確認しました。この研修で学んだことをクラブに持ち帰って、アカデミーのコーチやスタッフに還元したいと思います」

 ジェフユナイテッド千葉のADの朴才絃は「ビジネス界はサッカー界よりも先を行っている部分が多くある。新しい知識や考え方を聞くことができるので、勉強になりますね。自分はいいと思ったことはすぐに実践するタイプなので、うちのコーチ陣に伝えたい」と、白い歯を見せた。

 研修の発案者、上野山は言う。
「Jリーグもクラブも努力し、常にJリーグ アカデミーのブランドの向上を目指さなくてはいけないと思っています。Jリーグがすべきこと、クラブがすべきこと、それぞれ役割分担があります。Jリーグとしてやるべきことのひとつが、今回の研修です。JリーグとしてはADに学び続ける姿勢を求めているのと、コミュニケーションのスキルの伸長の機会を特に重要視してこのような機会を提供しています」

 ADは、日本サッカーの未来を形作る要職である。選手育成に多大な影響を持つADの素養を向上させるため、Jリーグとしてもさまざまな取り組みを行っている。上野山によると、「この研修は今後も定期的に続けていく予定」だという。

 参加者の声を聞いている中で、千葉の朴が、ふと漏らした言葉が印象に残っている。
「『企業は社長(=リーダー)の器(うつわ)を越えない』という言葉があるように、アカデミーはADの器以上にはならないと思う。だからこそ、JリーグはADのさらなる成長をうながすためにいろいろな取り組みをしているんでしょう。ADの重要性が各クラブで共有されるようになれば、素晴らしいですよね」

 育成の成功なくして、日本サッカーの成功はない。世界で活躍する選手の育成――そのためにJリーグとクラブのアカデミーの関係者は日々、努力を重ねているのである。(文中敬称略)

<了>

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著者プロフィール

鈴木智之

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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