球児の“本命”は日大三 出場校の仕上がりを最終チェック=第83回選抜高校野球・直前リポート

松倉雄太

神宮王者の日大三 13校が優勝候補に

13校が優勝候補に挙げた神宮王者の日大三高。初戦で明徳義塾と対戦する 【写真は共同】

 第83回選抜高校野球大会は23日に開幕する。先日の東日本大震災後、開催可否が検討され、18日の臨時運営委員会で正式に開催されることが決まった。出場校は19、20日の2日間にわたって甲子園練習を行い、本番へ向けて最後の仕上げに入った。甲子園練習と直近の練習試合を含めて大会を占ってみたい。

 14日に行われた『キャプテントーク』で、32校のうち13校の主将が優勝候補と挙げたのが神宮王者の日大三高(東京)。甲子園練習では1番を打つ高山と7番の菅沼がそれぞれ本塁打を放った。エースの吉永は18日の大阪桐蔭高戦で5回1安打1失点、20日の太成学院大高戦では7回を無失点と抜群の安定感を発揮している。投手陣は昨秋、吉永に頼っていたが、右サイドの中野、長身左腕の関が成長し、主将の畔上も秘密兵器的な存在になってきたようだ。初戦の相手は明徳義塾高(高知)。馬淵監督は「1番力のあるチームと32番目のチームの戦い」と評している。馬淵監督の采配で日大三高にどう挑むか非常に楽しみだ。

 32人の主将が選んだ優勝候補の2位は「出場校すべてにチャンスあり」で6票。その次は2票で履正社高(大阪)だった。エースの飯塚は、今オフにひじの位置を上げる新フォーム作りに取り組んだ。春の練習試合では持ち味の安定感を発揮。16日の岸和田産高戦の3回パーフェクトを含め、ほとんど失点を喫していない。

昨夏準Vの東海大相模vs.好投手擁する関西

 甲子園練習の動きが光ったのが東海大相模高(神奈川)。1番を打つ渡辺ら、攻撃陣の多くが昨春の初戦敗退、夏の準優勝を経験している。昨秋、渡辺、臼田、田中、菅野のレギュラー4人で回さざるをえなかった三塁コーチも、背番号13の今井が成長し春の練習試合から起用されているようだ。初戦は好投手、堅田と水原を擁する関西高(岡山)。アグレッシブな攻撃で2枚看板を崩せるか見ものである。

 昨夏の甲子園を沸かせた投手の一人が報徳学園高(兵庫)の田村。エースとなった秋は不調で苦しんだが、この春になってようやく復調の兆しが見えてきた。15日の春日丘高戦で今シーズン初完投。20日の市神港高戦でも7回を無失点に抑えた。初戦の相手は初出場の城南高(徳島)。今大会出場選手でナンバーワンの打率(6割9厘)を誇る4番・竹内を中心とした強力打線は甲子園練習でも快音を連発していた。田村に対してどう挑むか。

 九州国際大付高(福岡)は三好、高城のバッテリーを中心に打撃の好調さが甲子園練習で見てとれた。智弁和歌山高(和歌山)は上野山、青木、宮川の3投手が軸になるチームだが、「今は古田の調子も良い」と捕手の道端は話してくれた。打者陣も早い仕上がりで総合力の充実度がうかがえる。初戦で東北高(宮城)と対戦することになった大垣日大高(岐阜)は、阪口監督が「(エースの)葛西は絶好調」と抽選会で太鼓判を押した。

金沢・釜田と波佐見・松田に注目

 右投手で目立ったのは金沢高(石川)の釜田と波佐見高(長崎)の松田。釜田は今冬に投球フォームを大きく変えた。150キロを出しても打たれていた昨秋のイメージとはまったく違うと言っていい。「これだというのをつかんだのは3月に入ってから。参考にしたのは工藤(公康)投手(元埼玉西武)です」と釜田は20年以上同じフォームで第一線を張り続けた投手の名を挙げた。松田はこの冬で体重が4キロ増えたという。腰回りが一回り大きくなり、球威も格段に上がった印象だった。
 その波佐見高と初戦で対戦する横浜高(神奈川)は、甲子園練習でやや不安な部分が見られた。18日に遊撃手の青木が右手小指を骨折。渡辺監督は「内野の連係が不安」と頭を痛めていた。

 19日に大阪入りし翌日が甲子園練習と慌ただしく日程をこなした東北高。甲子園では30分の多くを打撃練習に割いた。1週間以上実戦的な練習を行えず、調整の遅れは否めないが、甲子園での打撃を見る限りは、バットが振れていたようにも感じる。主催者側の配慮で初戦は6日目。この時間でどこまで実戦感覚を取り戻すことができるか。

 さて、組み合わせを4分割して大会の行方を探る。Aブロックは九州国際大付高、Bブロックは日大三高と金沢高、Cブロックは履正社高と智弁和歌山高あたりが中心になりそう。秋の地区大会優勝校が5チーム入ったDブロックは予測が難しい。だが、甲子園練習を見る限り、東海大相模高が不気味に見えてきた。

一生懸命なプレーで人々に笑顔を

 最後に震災からわずか12日で開幕するにあたってはさまざまな意見が出た。被災地住民への感情、厳しい練習を積んで出場をつかんだ選手への思いなど主催者側がその間で揺れたのは事実だ。
 だが、大会開催が決まった以上、選手にできることは一生懸命なプレーである。「なぜ、この大会が開催できたのか」「なぜ今、野球をすることができるのか」ということの意味を選手一人一人が真剣に考え、最後まで全力で戦う姿勢が重要だ。その姿勢を貫くことが、被災地で耐え難い苦しみを味わっている人々を元気にさせるだろう。
 今大会では試合の勝ち負けよりも、そんな一生懸命さを忘れることなく試合に臨んでほしい。そして、大会が終わった時、苦しみを味わった人々に再び笑顔が戻ることを心から願う。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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