創志学園、センバツで歴史的1勝なるか!?=第83回選抜高校野球・直前リポート

矢島彩

「先制して逃げ切る」 創志学園の強さ

 昨春創部したばかりの新2年生軍団。岡山県の創志学園高野球部は、2005年に神村学園高(鹿児島)を選抜準優勝に導いた長沢宏行監督が指揮をとり、創部から史上最短での選抜出場を決めた。

 飛び抜けた選手は不在。投手力、攻撃力、守備力において相手を圧倒するような強さもない。それでも負けないチームだったのは、辛抱強さとベンチワークにある。

 創志学園高の戦いを象徴する一戦は、2対1で勝った広島国際学院高(広島)戦(中国大会準々決勝)だ。広島国際学院高は攻守にバランスの優れたチームで、ベスト8ながら補欠1位に選ばれたほどだ(ベスト4の鳥取中央育英(鳥取)が補欠2位)。「攻めるには初回しかない」との指揮官の思惑通り、創志学園高は初回に2点を入れる。相手投手の投球時の癖を見抜いた長沢監督が選手たちに伝授し実行。そして5番・玉井涼太が先制タイムリーを放った。玉井は前の試合まで2番打者。「打順は日替わりで試合直前まで自分たちも分からない。だけど、本当に当たるからすごい」(主将・野山慎介)と、起用的中にナインは目を丸くする。
 この2点を左腕・富田一成らが守りきるのだが、とにかく我慢の連続だ。打たれたヒットは10本、得点圏に走者を背負った回数が6イニングも数える。特に6回からはずっとピンチ。2対1で迎えた6回2死一塁の場面では投手交代ミス(投手交代の際、伝令役がベンチの指示とは異なる選手を告げた)のアクシデントもあった。しかし、結果的には14残塁の山を築かせた。「秋は毎試合こんな感じ。もうピンチには慣れました」と野山と富田が思わず口をそろえた。
 秋は全試合で先攻を取り、先制して逃げ切るパターンを確立させた。

課題は本格派投手への適応

 選抜の目標は新2年生部員だけの歴史的1勝だ。しかし、勢いもあった秋を考えれば、同じような辛抱強い戦いが選抜の1回戦でできるとは限らない。それは選手たちも危惧(きぐ)しており、野山も「個々の技術力向上次第」と言い切る。チーム打率2割3分4厘は出場校中最下位、防御率2.75も下から6番目の成績だ。富田は「出場校の中でボールが一番遅いはず。ストレートの最速は島袋洋奨(興南高)の変化球と同じくらいです。選抜までに135キロが目標だけど、かなり難しい」と苦笑い。さらに、長沢監督も「本格派投手への慣れが心配」と課題を挙げる。岡山県大会決勝と中国大会決勝で敗れた関西高(岡山)戦は、140キロ超のストレートを武器とする水原浩登に2試合で1得点、19三振と“苦手”を露呈した。学校に140キロが出るピッチングマシンがなく、グラウンドが狭いためフリーバッティングができない。

 そのかわり普段から県営球場を使っており、この冬は倉敷マスカットスタジアムの室内練習場を借りてマシンの打ち込みもしている。平日木曜以外は授業の一貫として14時から練習でき、専用マイクロバス、専用寮も完備。練習環境は恵まれているだけに、初めて迎える長いオフシーズンで練習不足を補うことができる。しかも部員は彼らの学年28人しかいないのだから効率がいい。大幅な成長を期待できる状態だ。

 長沢監督は阪神甲子園球場は自分にとって“ホーム”だと話す。兵庫県西宮市に生まれ、小学1年生のときから学校行事で走り回っていた。学生時代は売り子のアルバイトも経験。市立西宮高時代は予選会場にもなり、指導者としては神村学園高を初出場で準優勝まで導いている。
「いやあ、きっと選抜では1回戦で強豪と当たることになるんですよね。でもね、僕はタイガーズファンなんですよ。だから球場独特の風向きとかも染み付いているんです」
 慣れ親しんだ聖地。“ホーム”の利を生かして、長沢監督が歴史的初勝利に挑む。

<了>
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著者プロフィール

 1984年、神奈川県出身。『アマチュア野球』、『輝け甲子園の星』『カレッジベースヒーローズ』(以上、日刊スポーツ出版社)や『ホームラン』(廣済堂出版)などで雑誌編集や取材に携わる。また、日刊スポーツコム内でアマチュア野球のブログを配信中

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