“テニス界のグローバル化”が作り出す新たな勢力図 男子2強時代終焉の予感と国際色豊かな女子

内田暁

全豪オープンの栄冠をかけて戦ったマレー(右)とジョコビッチ。決勝の舞台に、ナダルとフェデラーの姿はなかった 【Getty Images】

 11――ラファエル・ナダル(スペイン)とロジャー・フェデラー(スイス)のどちらかが決勝戦に進出した、グランドスラムの連続大会数。なお過去24大会(6年間)で見ても、二人のいずれもが決勝前に敗れたのは、今大会が二度目のことだ。

 12――ノバック・ジョコビッチ(セルビア)が自身初のグランドスラムを獲得して以来、今回の栄冠までに費やしたグランドスラム大会数。ちなみにこの「空白の時間」は、歴代2番目の長さである。

 75――英国の男子選手が、最後にグランドスラムを獲得してから、今日までの年数。

 2――ジョコビッチがこれまで(今回を含む)に獲得したグランドスラムの数。

 3――アンディ・マレー(英国)がグランドスラムの決勝で喫した連敗数(今大会含む)。

 0――マレーの、獲得グランドスラム数。

ナダルとフェデラーが押し上げた、男子テニスのレベル

 世界ランク3位のジョコビッチに、同5位のマレー。それぞれ、昨年の一時期は2位と4位を記録したこともある23歳のこの二人は、ナダルとフェデラーの両者のすぐ後ろに控える、上位追走勢力である。
 にも関わらず、上に列記した数字の数々は、この二人がいかに長い期間を栄冠に恵まれず過ごしたか……つまりは、いかにナダルとフェデラーの両者が、長きに渡り頂点に君臨してきたかを示している。
 だが、その永遠につづくかと思われた2強時代も、いよいよ終焉(しゅうえん)に差し掛かっているかもしれない――今大会のジョコビッチのパフォーマンスは、そう思わせるに十分な迫力と説得力に満ちていた。

 圧巻だったのは、フェデラーを破った準決勝。フェデラーが比較的苦手とする、バックハンドへの高く弾むボールを徹底して打ち続け、昨年の覇者を一敗地にまみれさせた。戦術を口で言うはやすいが、相手はあのフェデラーである。約3時間を通し、常に高いレベルで作戦を完遂した集中力と体力は、どれだけ賞賛しても、し過ぎることはないだろう。
 
 3年ぶりに頂点に帰還した全豪チャンピオンは、「3年前と比べ、どれくらい上達したと思うか?」と聞かれた際に、「3年前より、フィジカルも精神面も強くなった」と自身の成長を認めた上で、さらには「男子テニスは、ここ数年で急激にハイレベルになった。4年前と比べても、ボールのスピードが速くなっているのは明らかだ」と、テニス界全体のレベルアップをも強調した。
 ナダルとフェデラーという、史上最高のライバル関係が互いを上へ上へと押し上げ、結果として、競技の質そのものを大きく引き上げた。今大会覇者のジョコビッチ、そして準優勝者のマレーの二人は、先を並走するナダルとフェデラーの背を追い、己の心技体に磨きをかけ、今まさに、肩を並べかけるまでに迫ってきたところだ。

 激しく高質な切磋琢磨の帰結として、過去に無いほど急速に底上げが成され、選手層も厚みを増している今日の男子テニス界。その背景には、テニスのグローバル化が大きく関与していることも見逃せない。拡大し変化する勢力図は、つい10年ほど前まで“テニス大国”と呼ばれた米国やオーストラリアの選手が、ことごとく早期敗退している事実にも顕著に見ることができる。

 今回の全豪オープンでは、4回戦の時点で米国、フランス、オーストラリア勢はすべて姿を消し、4大大会開催国出身で勝ち残っているのは、マレーのみという状況だった。
 己の野心と国の威信を推進力に台頭する新勢力と、伝統と誇りにかけて捲土(けんど)重来を期する旧勢力。共に高いモチベーションを抱く二つの勢力が競争を激化させ、今男子テニスは、2強時代から群雄割拠の時へと移行しつつある。今大会のジョコビッチとマレーの頂上決戦は、その象徴と言えるだろう。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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