“テニス界のグローバル化”が作り出す新たな勢力図 男子2強時代終焉の予感と国際色豊かな女子
全豪オープンの栄冠をかけて戦ったマレー(右)とジョコビッチ。決勝の舞台に、ナダルとフェデラーの姿はなかった 【Getty Images】
12――ノバック・ジョコビッチ(セルビア)が自身初のグランドスラムを獲得して以来、今回の栄冠までに費やしたグランドスラム大会数。ちなみにこの「空白の時間」は、歴代2番目の長さである。
75――英国の男子選手が、最後にグランドスラムを獲得してから、今日までの年数。
2――ジョコビッチがこれまで(今回を含む)に獲得したグランドスラムの数。
3――アンディ・マレー(英国)がグランドスラムの決勝で喫した連敗数(今大会含む)。
0――マレーの、獲得グランドスラム数。
ナダルとフェデラーが押し上げた、男子テニスのレベル
にも関わらず、上に列記した数字の数々は、この二人がいかに長い期間を栄冠に恵まれず過ごしたか……つまりは、いかにナダルとフェデラーの両者が、長きに渡り頂点に君臨してきたかを示している。
だが、その永遠につづくかと思われた2強時代も、いよいよ終焉(しゅうえん)に差し掛かっているかもしれない――今大会のジョコビッチのパフォーマンスは、そう思わせるに十分な迫力と説得力に満ちていた。
圧巻だったのは、フェデラーを破った準決勝。フェデラーが比較的苦手とする、バックハンドへの高く弾むボールを徹底して打ち続け、昨年の覇者を一敗地にまみれさせた。戦術を口で言うはやすいが、相手はあのフェデラーである。約3時間を通し、常に高いレベルで作戦を完遂した集中力と体力は、どれだけ賞賛しても、し過ぎることはないだろう。
3年ぶりに頂点に帰還した全豪チャンピオンは、「3年前と比べ、どれくらい上達したと思うか?」と聞かれた際に、「3年前より、フィジカルも精神面も強くなった」と自身の成長を認めた上で、さらには「男子テニスは、ここ数年で急激にハイレベルになった。4年前と比べても、ボールのスピードが速くなっているのは明らかだ」と、テニス界全体のレベルアップをも強調した。
ナダルとフェデラーという、史上最高のライバル関係が互いを上へ上へと押し上げ、結果として、競技の質そのものを大きく引き上げた。今大会覇者のジョコビッチ、そして準優勝者のマレーの二人は、先を並走するナダルとフェデラーの背を追い、己の心技体に磨きをかけ、今まさに、肩を並べかけるまでに迫ってきたところだ。
激しく高質な切磋琢磨の帰結として、過去に無いほど急速に底上げが成され、選手層も厚みを増している今日の男子テニス界。その背景には、テニスのグローバル化が大きく関与していることも見逃せない。拡大し変化する勢力図は、つい10年ほど前まで“テニス大国”と呼ばれた米国やオーストラリアの選手が、ことごとく早期敗退している事実にも顕著に見ることができる。
今回の全豪オープンでは、4回戦の時点で米国、フランス、オーストラリア勢はすべて姿を消し、4大大会開催国出身で勝ち残っているのは、マレーのみという状況だった。
己の野心と国の威信を推進力に台頭する新勢力と、伝統と誇りにかけて捲土(けんど)重来を期する旧勢力。共に高いモチベーションを抱く二つの勢力が競争を激化させ、今男子テニスは、2強時代から群雄割拠の時へと移行しつつある。今大会のジョコビッチとマレーの頂上決戦は、その象徴と言えるだろう。