日本サッカーが韓国コンプレックスを克服した日=蘇る記憶、オフトが刻んだアジア制覇の原点

原田大輔

日本が目指しているサッカーの原点

福田はオフトの下で戦い、「フィジカルで上回る相手にも勝てる」と実感。韓国への苦手意識も消えた 【佐野美樹】

 勝つことが何よりの薬だった。日本はこの勝利により韓国へのコンプレックスがなくなり、確かな自信をも得た。それによってもたらされたのが、広島で開催された92年アジアカップでの初優勝だった。開催国という地の利もあったが、日本はグループリーグを突破すると、準決勝で中国に、そして決勝ではサウジアラビアに1−0で競り勝ち、初めてアジアの頂点に立った。それは、日本がアジアの強豪へと変わった瞬間だったと、柱谷は言う。
「初めてアジアカップに優勝したことで、ほかのアジア勢から、強豪として見られるようになった。その後のW杯予選では明らかに相手の戦い方が変わった。それまで対等に勝負を挑んできたけど、W杯1次予選では引いてカウンターを狙ってくるチームが増えた」

 韓国だけでなく、中国や北朝鮮に勝つことすら難しかった日本は、オフトという1人の外国人監督に導かれ、組織的なサッカーを身につけると、アジアの列強となった。森保は今の日本が目指しているサッカーの原点がここにあると言う。
「組織で戦うことが日本の強みだということをオフトは教えてくれた。チームのためにプレーすることによって、より力を発揮できるという、日本人の長所を教えてくれた。それまでの日本は、ただ良い選手を11人並べていた。でも、オフトはよりチームとして機能する11人を起用した。それによってアジアで戦えるようになり、世界にも初めて近づくことができた」

“ドーハの悲劇”で笑った韓国

オフトのサッカーを象徴していたのが、ボランチ森保の存在。そこには日本が目指すサッカーの原点がある 【佐野美樹】

 そして、「歴史を変えよう」という合言葉の下、彼らは93年、W杯・米国大会のアジア最終予選に臨む。初戦でサウジアラビアに引き分け、続く第2戦ではイランに敗れるものの、ここから巻き返すと北朝鮮、韓国に勝利し、初のW杯出場にあと一歩のところまで迫った。
 しかし、勝てば初のW杯出場というイラクとの最終戦で悲劇が起こる。2−1とリードして迎えたロスタイムに、ショートコーナーからクロスを上げられると、同点弾を決められてしまう。それは今なお“ドーハの悲劇”として語り継がれる瞬間だった。結果は2−2の引き分け。これにより日本はW杯出場を逃してしまった。この時、日本と同勝ち点ながら得失点差で2位となり、W杯出場を勝ち取ったのは韓国だった。

 最終予選で満足のいくプレーができなかったと語る福田は、当時の自分には勝者のメンタリティーが備わっていなかったと振り返る。
「僕自身は最終予選では全然、思うようなプレーができなかった。ずっとふわふわしている感じで……。今、考えると、あれがプレッシャーというものだったのかなと思う。当時はちょうどJリーグができる直前で、日本サッカーは過渡期にあった。まさに僕らは日本サッカーの未来を背負って戦っていた。それは今まで経験したことのないようなプレッシャーだった。そうした中で勝つことに僕は慣れていなかった」

今の日本に韓国を恐れる要素はない

 くしくも今回のアジアカップは、“ドーハの悲劇”の舞台となったカタールで開催されている。日本が初めてアジアの頂点に立ってから、今回で5大会目を数える。その間、日本は韓国への苦手意識を払しょくし、世界も経験した。アジアカップでは2度の優勝を飾り、サウジアラビア、イランと並ぶ最多優勝国(3回)となった。

 そこには、“ドーハの悲劇”と言われる舞台を戦ったころの日本が掲げた組織的なサッカーが脈々と受け継がれている。また、当時の日本に足りなかったものが、勝者のメンタリティーだとするならば、中国で開催された2004年アジアカップで劇的な勝ち上がりにより優勝したように、アジアの強国としてのメンタリティーは確実に養われてきた。
 今大会もベスト8のカタール戦で、先制されながらも追いつき、数的不利を跳ねのけ、逆転勝利を収めてみせたように――。今の日本に韓国を恐れる要素は1つもない。(文中敬称略)

<了>

『GIANT KILLING extra Vol.04』

最新号のテーマは、「外側から見てみる日本のサッカー」。外国人指導者や海外で経験を積んだ日本人プレーヤーにスポットライトを当てる 【GIANT KILLING extra】

「モーニング」で大人気連載中の漫画『GIANT KILLING』から生まれたジャイキリムック。サッカー×漫画の本格コラボが話題の大好評シリーズに、ついに第4弾が発売! 『GIANT KILLING extra Vol.04』のテーマは「外側から見てみる日本のサッカー」。日本サッカーに本場の戦術や文化を持ち込んだ外国人指導者や、海外で経験を積んだ日本人プレーヤーたちにスポットライトを当てる。
 元広島/神戸監督のスチュワート・バクスター、横浜Fをバルセロナのドリームチームに仕立て上げ鮮烈な印象を残したカルレス・レシャック、V川崎、名古屋、そして現在は柏とJ3クラブの監督を歴任してきたネルシーニョがインタビューに登場。また、1982年から日本サッカーにかかわり、外国人初の日本代表監督を務めたハンス・オフトの功績を、柱谷哲二、福田正博、森保一の各氏が検証する。そのほか、松井大輔、稲本潤一、福田健二らのインタビューも掲載。

2/2ページ

著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント