新世代の10番・香川真司、ライバル対決で真価が問われる

元川悦子

劇的勝利へと導いた「強気の勝負心」

韓国戦は新10番の真価が問われる大一番。エースナンバーにふさわしい活躍を期待したい 【Getty Images】

 この日の日本は入りが悪かった。今野泰幸が「前半は攻めていたけど、すごくバランスが悪いと感じた」と話すように、自分たちのリズムで戦っていなかった。早々と1点目を失い、嫌なムードが漂ったが、それを香川が跳ねのける。前半28分の最初の同点弾は彼自身が起点となり、20メートル以上の距離を走って岡崎のシュートを押し込んだもの。本人は「ごっつあんだった」と苦笑したが、待望の今大会初ゴールには変わりなかった。

 ここから香川は鋭さを増していく。43分には左サイドを駆け上がって強烈なシュートを放つなど、縦への意識が格段に上がった。これは岡崎に大いに影響を受けたのだろう。後半、吉田麻也が退場し、モンテシンのFKで再びリードされた後も攻撃的姿勢をより高めた。後半25分に本田圭佑の縦パスに岡崎とともに走り込んで左足で奪った2点目のシーンには、動き出しの素早さ、シュート精度の高さが色濃く出ていた。この1点は心が折れそうになっていた日本の選手たちに大きな希望を与えた。

 そして終了間際の伊野波雅彦の決勝点をおぜん立てしたのも香川。長谷部の強めの縦パスを受けると、DF2人とGKが寄せてきても逃げずにドリブル突破を試み、ゴールに向かった。伊野波が決めていなかったとしても、これはPK獲得に等しい。そんな「強気の勝負心」こそ、香川の真骨頂である。

「相手がボールウオッチャーになって前のめりだったんで、うまくかわせば決められると思った。自分の良さが出た」と、香川は安堵(あんど)感をにじませた。90分を通して見れば、相変わらずボールを失うミスが非常に多く、本人も「ゴール以外は全然」と不満いっぱいだったが、それでも求め続けて得点を挙げたという事実はやはり重い。

「ゴールすることでこれだけ気持ちが軽くなるのをあらためて実感した。やっぱり特別なものだと思いました」と、翌朝の練習時にしみじみと語っていた香川。エースナンバー10は、重圧や不完全燃焼をようやく乗り越えた。このまま輝きを発揮してくれれば、日本の攻撃にさらなる弾みがつくことは間違いない。

宿敵・韓国との大一番は最高の試金石

 準決勝は永遠のライバル・韓国との対戦が決まった。韓国は香川と同じ21歳でトップ下のク・ジャチョルが目下4ゴールと大ブレーク中。「日韓新エース」の激突は大いに注目を集めるだろう。今大会限りでの代表引退が有力視されるパク・チソンは日本戦で国際Aマッチ100試合を迎える。10月の日韓戦では負傷欠場したため、香川はアジアナンバーワンMFと初めて同じピッチに立つことになる。

「韓国は今、若い選手が生き生きしている。でも、僕らも若い世代はいいと思っているんで、結果を残せるようにしたいです。パク・チソンはマンチェスター・ユナイテッドでやってるし、アジアで一番実績を残している選手。そういう選手と戦えるのはすごく楽しみですね」

 南アフリカでもアルゼンチンに真っ向勝負を挑んだ韓国は、これまでの相手のように自陣に引いて守るような戦い方はしない。攻撃的に来てくれることで、むしろ香川は自分の良さを出しやすくなる。「いろんな局面で1対1ができる状況が増えるかもしれない」と彼自身も強豪との対戦を歓迎する。

 左サイドでスタートし、機を見ながら中に入り込んでゴールを狙うという新たな仕事のツボを香川は見いだしつつある。ドルトムントでのスタイルに幅を加えた新世代の10番が、宿敵相手に確固たる結果を残せるのか。次の大一番は発展途上の香川にとって、最高の試金石となるだろう。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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