静かなる正守護神争い、西川周作の挑戦
南ア行きを断たれて……川島の成功に刺激
西川に求められるのは大舞台での経験値。アジアカップで再びピッチに立つことはあるのか 【写真:ロイター/アフロ】
「僕になくて能活さんにあるものは、みんなをまとめる力、リーダーシップ。ベテランだし、いろんな経験をした中での選出だった。岡田さんの話を聞いて自分も納得しました。でも本音を言えば、南アに行って戦いたかった。北京で一緒にやった同世代の選手が中心になっていたし、自分が(そこに)いないもどかしさ、悔しさはありました。複雑な気持ちでしたけど、第3GKで南アに行くより、次のブラジルで一番を狙ってもう1回やった方がいい。そう思って自分の中で割り切りました」
朗らかでポジティブな性格の男は切り替えが早かった。だからといって、悔しさを忘れたわけではない。自分のいない日本代表が南アでどんな戦いをしたのか……。それをしっかりと見つめ、脳裏に焼きつけたのだ。
「点を決めた選手がベンチに行ったり、ベンチの選手も前に出て喜んだりとか、そういう一体感がチームにないと勝てないんだって、W杯を見ていてすごく感じましたね」
もう1つ、目の当たりにさせられたのが、千載一遇のチャンスをモノにした川島の威風堂々とした姿だった。
「永嗣さんはすごくいい準備をしていたから、ああいうパフォーマンスを出せたと思う。もともと意識も高いし、ストイックな人なので、学ぶことはたくさんあります」
川島とは控えGKとして一緒に練習する機会が多く、お互いのことを理解し合っていた。西川は誰よりも川島の成功を喜び、大きな刺激を受けたはずだ。その川島からポジションを奪わなければ試合には出られない。GKとは実に因果な仕事である。
「10年以上ポジションを争ってきた能活さんとナラさんは、お互い練習中からピリピリしていた。すごくいい緊張感を持ってやっていたと思うんです。そういう緊張感で自分たちもやれればもっとレベルが上がる。チャンスが来たときに力を発揮できるように、いい準備をすることを常に心掛けています」
身につけた精神力と求められる経験値
「最初からPKだったし、割り切ってました。気持ちの準備さえできていれば、体が動くことは分かっていたので。10月のアルゼンチン戦でも、永嗣さんのけがで途中からやっていますし、そのときより落ち着いて入れた思いますね」
F・アル・カティブ(10番)の蹴ったシュートコースは完ぺきに読んでいた。合わなかったのは高さだけ。瞬く間に1点を失ったが、逆にこのPKで判断に手応えを得たのだろう。この後、西川はDF陣と連係しながら冷静にコントロール。失点を最小限に抑えた。一歩間違えば、自分を見失ってしまいそうな騒然としたムードの中での20分余りだったが、彼は意外な言葉を口にした。
「完全アウエーだったけど、そういうところでやった方が面白い。すごく楽しめました」
緊迫感を楽しむ余裕を持てたら、GKは本物だ。W杯・南ア大会の落選を乗り越え、西川はいつの間にか、一回り大きな精神力を身につけていたようだ。そんな彼からすれば、戦意喪失したサウジアラビアは簡単すぎたのかもしれない。
「守ってみて相手のモチベーションの低さを感じました。そういう試合だからこそ、危ないシーンは1回や2回はある。そこでキッチリ抑えられるかどうかで、流れがガラッと変わる。実際、開始早々のFKから飛び込まれたシーンは危なかったですよね。ああいうのは課題だと思っています」
西川が常に謙虚さを失わないのは「本当の戦いはこれから」という思いが強いからだろう。彼のキャップ数は現在5。出場した国際Aマッチの相手は香港、アルゼンチン、韓国、シリア、サウジアラビアだ。アルゼンチンと韓国はワールドクラスの相手だったが、あくまで親善試合。高いレベルの真剣勝負はまだ未知の世界だ。
それゆえ、ここから先のしびれるような試合を体験しなければならない。川口も楢崎も大舞台に繰り返し立ち、守護神としての能力に磨きをかけてきた。今、西川が川島に及ばないのはその経験値だ。自分の足りないものを補うためにも、アジアカップで再びピッチに立ち、緊張感や重圧を楽しみたいところだが……。まずはザック監督、そしてグイードGKコーチの決断を待ちたい。
<了>