今のままではいけない――田嶋氏FIFA理事落選の意味
田嶋「もう一度トライしろということだと思っている」
「フットボールカンファレンス」で田嶋幸三副会長は4年後に行われるFIFA理事選挙への再出馬に意欲を見せた 【写真は共同】
ビジネスクラスに乗って世界30カ国(1月13日の日本協会理事会後記者会見では「30カ国近く」と述べている)を回るのにいったいいくらかかるのか。本当に30カ国を回ったのか。うわさの3000万円が仮に本当だとするならそれは誰の財布に納まったのか。帳簿でも公開されない限り、わたしたちには知るすべがない。
今回の選挙活動で田嶋が30カ国でどんなことを言って回ったのかは知らない。だが、結果からみれば少なくとも日本が指導者派遣などで多大な貢献をした国以外には相手にされなかったということだろう。全45票のうち、19票しか獲得できなかったのだ。回ったという30カ国にはるかに及ばない。ヒト・モノ・カネをかけるのならそれに見合った成果を求められるのはごく当然のことだ。どこの企業だって成果を残せなければそのプロジェクトリーダーは責任を取らされる。日本協会にとって最大の資金源である代表チームにはそれなりのプレッシャーがかかっているが、今回の田嶋が残した結果についてはいったい誰がどんな責任を取るというのか。田嶋は13日の理事会後の会見で「わたしはAFC理事の経験がない中で臨んだが、ほかの3人はみな10年以上の経験があった。かなりいいところまでいったとは思うが残念ながらこういう結果になってしまった」とさらりと述べ、責任を感じているどころか「AFC理事でしっかりと実績を積み、もう一度トライしろということだと思っている」と続けた。そういう発想はいったいどこで身につけてきたものなのだろうか。
アジアに精通する人材を本当に活用できていたのか
AFCには現在、最低でも3人の日本協会スタッフが出向しているはずだ。FIFAでも元フジテレビの社員だった日本人が働いている。ほかにも派遣指導員としてアジア各国に貢献している人間も少なからずいるし、東アジアサッカー連盟には8年にわたって事務総長を務めている日本協会の国際部長だった岡田武夫という人材もいる。この岡田は2002年のワールドカップ招致の時に世界中を飛び回った人物だからアジア各国にもその存在は広く知られている。AFCプロリーグプロジェクトのリーダーで、現在行われているAFCアジアカップ大会ダイレクターを務めている鈴木徳昭という人物はアジア各国に通じているし、すでに協会を去ったものの、藤田一郎という人はアジア貢献委員として技術指導を通じて文字通りアジアへの貢献活動を先頭に立って推進してきた人物である。今回の選挙活動で田嶋はそれら人脈も実績もある人材を有効的に活用しただろうか? とてもそうは思えない。先の2022年ワールドカップ招致と同じく、本気で“勝ち”にいく活動をしていたとはわたしには到底思えないのだ。田嶋は上記の人間たちをソリが合わずに遠ざけたと聞いている。表向きはどういう理由をつけているのか知らないが、仕事の成果ではなく、自分の都合・不都合で人事を決めているのではないか。それによって生じる組織としてのデメリットはいかほどのものか。国内ですらそうなのだから、さらに大きな困難を伴う国際的な場で経験も実績もない田嶋のやれることなど推して知るべしではないか。そしてここがもっとも組織として重大な問題だと思うのだが、田嶋のように成果・結果を残していない者がそのつど役職を上げていくというのはいったいどういうことなのか。不思議なことだといつまでも皮肉に笑って済ませている場合ではない。
話したことのある人間なら分かるはずだが、田嶋は愛想もよく、理路整然とした話し方をする。語り口を持っているのだ。『「言語技術」が日本のサッカーを変える』という著書に書いてある内容も素晴らしい。しかし、学生を相手にする先生というならいざ知らず、副会長として、相手をする誰もが皆、田嶋の言っていることとやっていることの違いに気づかないというわけではないだろう。名誉会長の川淵三郎はそんな田嶋を一年半後には次期日本協会会長に据えようとしている。