今のままではいけない――田嶋氏FIFA理事落選の意味

ミカミカンタ

田嶋「もう一度トライしろということだと思っている」

「フットボールカンファレンス」で田嶋幸三副会長は4年後に行われるFIFA理事選挙への再出馬に意欲を見せた 【写真は共同】

 田嶋は落選後、メディアに「30カ国を回ったことや日本の正攻法のやり方は共感を得た」と語ったらしいが、その30カ国を回るのにかかった金がいくらで、どうやって作られたものなのかを考えたら、そうたやすく「共感を得た」などと言えるものではない。それに正攻法というが、どんなやり方を正攻法というのか。田嶋は今回のAFC総会にキャッシュで3000万円を持って向かったとの話が協会に近いごく一部でささやかれている。つまりは票集めのための資金ということだ。3000万円という金額は別にしても、それより少ないのか多いのかは分からないが、ある程度の金は用意して向かったことだろう。先のワールドカップ招致に使ったとされる9億を超える金と合わせると日本にとっては決して少なくない無駄金を使ったと思われるのだが、ほかの国が使ったであろう金からみれば何とも中途半端な額にも思える。しかし、それとても全国のサッカーファンやスポンサー企業がこの大不況下にありながらも日本のサッカーを見放さずに応援・支援するために作った金なのだ。

 ビジネスクラスに乗って世界30カ国(1月13日の日本協会理事会後記者会見では「30カ国近く」と述べている)を回るのにいったいいくらかかるのか。本当に30カ国を回ったのか。うわさの3000万円が仮に本当だとするならそれは誰の財布に納まったのか。帳簿でも公開されない限り、わたしたちには知るすべがない。
 今回の選挙活動で田嶋が30カ国でどんなことを言って回ったのかは知らない。だが、結果からみれば少なくとも日本が指導者派遣などで多大な貢献をした国以外には相手にされなかったということだろう。全45票のうち、19票しか獲得できなかったのだ。回ったという30カ国にはるかに及ばない。ヒト・モノ・カネをかけるのならそれに見合った成果を求められるのはごく当然のことだ。どこの企業だって成果を残せなければそのプロジェクトリーダーは責任を取らされる。日本協会にとって最大の資金源である代表チームにはそれなりのプレッシャーがかかっているが、今回の田嶋が残した結果についてはいったい誰がどんな責任を取るというのか。田嶋は13日の理事会後の会見で「わたしはAFC理事の経験がない中で臨んだが、ほかの3人はみな10年以上の経験があった。かなりいいところまでいったとは思うが残念ながらこういう結果になってしまった」とさらりと述べ、責任を感じているどころか「AFC理事でしっかりと実績を積み、もう一度トライしろということだと思っている」と続けた。そういう発想はいったいどこで身につけてきたものなのだろうか。

アジアに精通する人材を本当に活用できていたのか

 今回の選挙結果について「小倉さんだったらあるいは当選したかもしれない」という人がいる。「たとえば今までの韓国だったら現代自動車の販売権に絡めたビジネスの話をしたりして票集めの駆け引きをしてきた。だけど日本は金に絡めた駆け引きができないんです。コーチの派遣だとか育成年代の交流だとかっていう当たり前の話しかできない。そうなると小倉さんがそうだったように、田嶋本人の人間性が問われる部分が大きくなってくる。その田嶋は若くて実績もない上、『サッカー批評49』で犬飼前会長が言っていたような日本でだけじゃなく、アジアの協会関係者にも『その場その場で言っていることを変える信頼できない男』だと思われているとあちこちから耳に入ってきていた。あの犬飼さんの言ったことはまさしく田嶋の本質を見抜いていて、あいつはあっちに行ってはこれこれ、こっちに行ってはこれこれと、まったく違うその場しのぎのきれいごとばかりを言って歩く人間だから。だけど彼は今回の落選を何とも思っていないはずだよ。だって(協会内で)周りは年寄りばっかりだから次の選挙の時にはいないんだよ。また自分がやれる、今度は自分の好きなようにやれると思っているんじゃないか」と。それが田嶋の「もう一度トライ」という言葉の意味なのだろう。『サッカー批評49』でわたしが取材した時、犬飼基昭前会長は「田嶋は世界の動きをまったく把握していない」と言っていたが、今回の落選で図らずもそれを証明する結果となってしまった。

 AFCには現在、最低でも3人の日本協会スタッフが出向しているはずだ。FIFAでも元フジテレビの社員だった日本人が働いている。ほかにも派遣指導員としてアジア各国に貢献している人間も少なからずいるし、東アジアサッカー連盟には8年にわたって事務総長を務めている日本協会の国際部長だった岡田武夫という人材もいる。この岡田は2002年のワールドカップ招致の時に世界中を飛び回った人物だからアジア各国にもその存在は広く知られている。AFCプロリーグプロジェクトのリーダーで、現在行われているAFCアジアカップ大会ダイレクターを務めている鈴木徳昭という人物はアジア各国に通じているし、すでに協会を去ったものの、藤田一郎という人はアジア貢献委員として技術指導を通じて文字通りアジアへの貢献活動を先頭に立って推進してきた人物である。今回の選挙活動で田嶋はそれら人脈も実績もある人材を有効的に活用しただろうか? とてもそうは思えない。先の2022年ワールドカップ招致と同じく、本気で“勝ち”にいく活動をしていたとはわたしには到底思えないのだ。田嶋は上記の人間たちをソリが合わずに遠ざけたと聞いている。表向きはどういう理由をつけているのか知らないが、仕事の成果ではなく、自分の都合・不都合で人事を決めているのではないか。それによって生じる組織としてのデメリットはいかほどのものか。国内ですらそうなのだから、さらに大きな困難を伴う国際的な場で経験も実績もない田嶋のやれることなど推して知るべしではないか。そしてここがもっとも組織として重大な問題だと思うのだが、田嶋のように成果・結果を残していない者がそのつど役職を上げていくというのはいったいどういうことなのか。不思議なことだといつまでも皮肉に笑って済ませている場合ではない。

 話したことのある人間なら分かるはずだが、田嶋は愛想もよく、理路整然とした話し方をする。語り口を持っているのだ。『「言語技術」が日本のサッカーを変える』という著書に書いてある内容も素晴らしい。しかし、学生を相手にする先生というならいざ知らず、副会長として、相手をする誰もが皆、田嶋の言っていることとやっていることの違いに気づかないというわけではないだろう。名誉会長の川淵三郎はそんな田嶋を一年半後には次期日本協会会長に据えようとしている。

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著者プロフィール

1959年、北海道出身。フリーライター。出版社で編集員をしたあと、さまざまな職業を経て現職に。インタビュー物を得意とし、緻密な取材を重ねて、なんとか目に見える向こう側を見ようとする。仕事のフィールドはサッカーから省庁、ラーメン屋まで、著名人から達人、無名人まで多岐にわたる。1968年メキシコオリンピックの直後にサッカーボールを買ってもらい、サッカー一直線の人生になるかと思われたが、当時の北海道の片田舎には少年向け指導者が存在せず、遊びのまま終わる。『サッカー批評』(双葉社)『フットボールサミット』(カンゼン)などに寄稿。昨年12月に発売された『サッカー批評ISSUE49』では会長交代後、長い間沈黙を守っていた犬飼基昭前JFA会長の独占インタビューを掲載し、これまでのサッカーメディアのタブーを打ち破った過激なその内容はサッカー関係者、ファンの間に今なお大きな反響を呼んでいる。一方で、地道に地方クラブを足で回って取材した書籍を執筆中。週末にはフットサルを楽しむ若干メタボ気味の“ガラスの中年”。Twitterアカウントはknt_m

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