「速攻型」の台頭、カウンターのイメージを覆す=第89回全国高校サッカー選手権 総括
守備は「カウンターをさせないことを意識」
西武台も速攻型のチーム。立正大淞南との準々決勝は見応えあるショートカウンターの応酬となった 【たかすつとむ】
速攻は無秩序に見えて、実は規則的に連続性、同時性を持って選手たちが動いている。具体的に言うならば、ワンボランチの稲葉修土がボールを奪うと、次の瞬間に池田拓生と新里大地の2トップにクサビが入る。これがスイッチとなって、左MFのドリブラー小田悠太がワイドに張り出し、アタッキング能力に長けたトップ下の徳永と右MFの加藤大樹がバイタルエリアを狙うなど、個々の特徴を生かすポジションに入っていく。そこからはゴールという目標に向かって、日々の練習で把握したそれぞれのポジショニング、動きをイメージし共有しながら、攻め切るのみ。
守備に関しても、「相手のカウンターを警戒するよりも、カウンターをさせないことを意識している。仕掛けて仕掛けて、取られた瞬間にすぐに守備に入る。それで高い位置で奪えたら、すぐに速攻を仕掛けるようにしています」(徳永)と、滝川第二同様に、あくまで「速攻ありき」で全員がプレーしている。
「ショートカウンターで攻め切る攻撃ができなければ、今の組織的な守備を打ち破るのは難しい。それはサッカー界全体でも言えることで、世界的に見ても、早い攻撃じゃないと点が取れない」と南健司監督も、「速攻型」の重要性を唱える。
準々決勝で立正大淞南にPK戦で敗れた西武台にもそれは当てはまった。もともと西武台は攻撃陣にタレントがそろい、「攻撃サッカーのチーム」と知られていたが、今年のそれはいつもと少し違った。大宮アルディージャ入団内定の清水慎太郎と佐々木雅人の強力2トップに、素早くクサビを当て、そこから2列目が長い距離を走って、分厚い攻撃を仕掛けていく。「素早く攻め切るために、センターラインからゴール前までの長い距離のダッシュと、ドリブルシュートの練習をみっちりとやった」と守屋保監督が語ったように、全員が長い距離をドリブルしてシュートレンジに入っても、足を振り切ってシュートを打つトレーニングを何度も行った。
これが奏功し、真夏のインターハイではショートカウンターを仕掛けると、2トップ、2列目以降が雪崩のようにゴールに襲い掛かる。西武台は抜群の破壊力を披露してベスト4、今大会もベスト8に進出と好成績を収めた。インターハイ準決勝では滝川第二に敗れ、今大会の準々決勝では立正大淞南に敗れた。共に「速攻型」のチームに負けたが、試合はいずれも激しいショートカウンターの応酬となり白熱した。
ポゼッション型の久御山を速攻型が凌駕
ポゼッション型は遅攻が多く、ボールを奪われても、そこからの速攻は少ない。そのため、守備がしやすく、奪ってからも付け入るすきは多い。ただ、それでも久御山が決勝まで勝ち上がり、滝川第二から3得点を奪えたのは、それだけ個々の技術の質が高かったからこそ。そこは松本悟監督が貫いてきたスタイルの賜物(たまもの)と言えよう。それを、滝川第二の攻撃が凌駕(りょうが)したのだ。
今大会の印象は、冒頭でも述べたように、「速攻型」が大きく台頭した大会として映った。それも「堅守速攻型」ではなく、「速攻型」。ゴールへのイメージが明確で、素早く手間暇をかけずに、シンプルに複数がかかわって、相手のゴールを射抜く。
「前線にボールを早くつけて、そこからワンツー、ドリブルを仕掛ける。もっと上を目指すには、この精度をもっと高めないといけない。特に中盤の攻守、守から攻への切り替えの質をもっと高めてこそ、壁を破れる」(南監督)
守って守ってカウンターだけが「速攻型」ではない。明確な速攻をするために、守備をしっかりと構築する。カウンターのイメージを覆す大会だった。
<了>