壮絶なスコアレスに思う「延長戦の導入を」=<準決勝 立正大淞南(島根) 0(6PK7)0 滝川第二(兵庫)>

安藤隆人

お互いが持ち味を出した好ゲーム

滝川第二は樋口(写真右)と浜口の2トップを中心に攻めるが、最後までゴールは奪えず 【鷹羽康博】

 予想通りのアタッキング合戦。しかし、スコアは予想に反し、タイムアップまで動かなかった。
 攻撃力を売りにするチーム同士の対戦。2トップのオフ・ザ・ボールの動きを生かして、シンプルかつ正確に前線にクサビを当てて攻撃を仕掛けてくる滝川第二と、前線の5人が矢継ぎ早にドリブルと縦へのパスでゴールに迫っていく立正大淞南。共にリスクを冒してでも前に出てくるチームとあって、壮絶な打ち合いが予想されていた。

 実際、試合はお互いに持ち味を出した白熱の好ゲームとなった。めまぐるしく変わる攻守と、最後まで攻め切る攻撃で、場内を沸かすシーンが多かった。だが、ゴールは遠かった。
 前半は滝川第二ペース。樋口寛規と浜口孝太の2トップが相手の高いディフェンスラインの裏を果敢に狙うと、右MF本城信晴と左MF恵龍太郎が早い段階でクロスを供給する。相手の明確な狙いを持った攻撃の前に、立正大淞南の守備陣は後手に回るが、それでも竹内洸と中村謙吾の両センターバックを中心に中央の守備を固めて対応。すると今度は、滝川第二がセットプレーからゴールをこじ開けにかかる。しかし、前半だけで6本のCKはいずれもはじき返され、ゴールには至らなかった。

 後半、流れは一変し、今度は立正大淞南の狙いがハマる。「もっと縦に行け! アグレッシブにやれ!」という南健司監督のゲキを受けた選手たちは、ボールを奪うと、池田拓生と新里大地の2トップ、トップ下の徳永裕次、左の小田悠太、右の加藤大樹の前線の5人が一気に動き出した。「早めに前につけて、そこからドリブルを仕掛ける」(南監督)という明確な狙いの下、前にいる選手に早くパスを出し、受けた選手がドリブルを開始すると、周囲もゴールに向かって走り出し、奪われた時のセカンドボールを拾い、そこからの展開での崩しを狙っていく。

 53分には加藤のスルーパスから池田が抜け出しGKと1対1になるが、放ったシュートは枠の外。57分には中央の加藤から左の小田に展開すると、小田の仕掛けからの折り返しを、再び加藤が詰めるが、これはDFの体を張ったブロックに遭った。
 立正大淞南の猛攻に、滝川第二も黙ってはいない。63分には左サイドでボールキープした本城のカットインから、MF谷口智紀が狙い澄ましたミドルシュートを放つが、これは右ポストを直撃する。72分にはFKから樋口がシュートしたボールを浜口がさらにシュート。これはGKのセーブに阻まれると、79分には左サイドを突破した本城のライナーのクロスを、中央に飛び込んだ樋口が見事なワントラップから強烈なシュートを放つが、これもGK三山大輝のファインセーブに阻まれた。

 そして今度は立正大淞南がこの試合で最大の決定機を2度も立て続けに迎える。86分、中央の加藤から左の小田へ。小田のクロスがファーサイドでフリーの池田の頭へピタリ。しかし、ヘッドはバーの上。直後の88分にはカウンターを繰り出す。中央突破を仕掛けた池田が35メートル近くを走り抜き、左から追い越してきた加藤へ絶妙なスルーパス。これを加藤が飛び出してきたGKをワンタッチでかわし、あとは無人のゴールに流し込むだけ――。キープしても十分に時間はあったが、すぐに放ったシュートは、なんと枠をそれてしまった。

 最大の決定機を逃し、勝負はPK戦へ。ここでもお互いのGKが奮闘し、9人目までもつれ込んだが、最後は立正大淞南DF椎屋翼のキックが無常にも枠を外れ、勝負あり。滝川第二が4度目の挑戦で初の決勝進出を果たした。

90分で終わらせるのはもったいない

90分を終えてもスコアは動かず、決着はPK戦へ。滝川第二が競り勝ち、決勝に駒を進めたが、延長戦を見たいと思わせる試合内容だった 【鷹羽康博】

 シュート数(滝川第二:立正大淞南)24:15という壮絶な打ち合い。手数では滝川第二が上回ったが、決定機は立正大淞南の方が多かった。
 お互いに明確な攻撃の形、狙いを持ち、リスク覚悟で攻め切るスタイル。それを真っ向勝負で発揮するのだから、手数はどちらも多くなる。それをもってしてもゴールは割れなかった。この結果は、逆に両チームがなぜここまで勝ち上がってきたのかを証明することとなった。

 攻撃サッカーを掲げるチームは多いが、やはり守備陣の踏ん張りがなければ、それは成立しない。最終ラインの守備がしっかりしているからこそ、アタッカー陣はリスク覚悟で思い切って前への圧力を強められるのだ。

 滝川第二は、センターバックの土師直大とボランチの香川勇気の2人が守備のバランスを支え、的確な読みとポジショニング、体の寄せで守備を引き締めた。一方、立正大淞南は竹内と中村謙の両センターバックと、南監督が「今大会一番スーパーなプレーをした選手」と大絶賛したワンボランチの稲葉修土がハードワークを繰り返し、何度も前線に攻撃のスイッチを入れるパスを供給した。まさに『縁の下の力持ち』の存在があってこそで、共に夏までは守備が崩壊してしまうもろさを抱えていたが、今大会はそのもろさが解消されていた。

「相手DFの気迫のシュートストップや厳しい寄せにゴールを割ることはできませんでした」と栫裕保監督は語ったが、これは両チームに言えることだった。スコアレスだったが、中だるみすることがない激しいアタックの応酬は、場内を静かにさせることはなった。
「もうちょっとプレーしたかった。PK戦まで来るともう運ですから。どうしようもないです」
 試合後、徳永はこう話したが、正直、90分だけで終わらせるのはもったいなかった。延長戦に入っていたら、一体どんなドラマが待っていたのだろうか。そんな期待を持たせてくれる一戦だった。

 PK戦は時の運。決勝では延長戦が行われるが、準決勝は90分で決着がつかなければ延長なしの即PK戦となる。国立という大舞台での一戦、日程的には準決勝の前と後に休みができたことで、リカバーの時間もある。そろそろ即PK戦を見直してもいいのではないだろうか。もちろん、テレビ放映などの問題はあるかもしれないが、最高の舞台での最高の戦いを流れを分断して即PK戦というのでは、いささか消化不良は否めない。

 実は準決勝が45分ハーフになったのは第87回大会(2008年度)からで、これは最高の舞台で「40分ハーフでいいのか」という議論から、大きな進歩につながった。ならば、延長戦の導入も真剣に検討してほしい。
 延長戦が見たかったと思わず、納得してPK戦が見られるように。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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