加藤大樹、シュートが下手な得点王=“突然変異”ではない、必然の大爆発

安藤隆人

ポジション変更が得点力を呼び覚ます

準々決勝の西武台戦で先制ゴールを挙げた加藤(右)。現在7ゴールで得点ランキングのトップを走る 【たかすつとむ】

「攻撃陣の中であいつが一番シュートが下手なのになぁ。不思議なものや」
 立正大淞南の南健司監督が語ったように、そこまでシュートがうまい選手ではなかった。ところがどうだろう。今大会、加藤大樹の放ったシュートは、ことごとくネットを揺すっている。

 突然変異? いや、そうではない。加藤にはこの1年間で着実に積み上げてきたものがあった。もともと加藤はアジリティーに優れ、切れ味鋭いドリブルとスペースへの仕掛け、飛び出しのタイミングは絶品。潜在能力が高く、チームの攻撃の中心であることは間違いなかった。

 加藤の意識を大きく変えたのは、真夏の沖縄インターハイだった。右サイドを主戦場にする加藤だが、インターハイ直前にトップ下のゲームメーカー・徳永裕次が負傷で離脱。南監督にプリンスリーグ3位の立役者と言わしめる攻撃の核の離脱という緊急事態に、彼の穴を埋めるべくして白羽の矢が立ったのが加藤だった。
「加藤のギュンっという抜群の飛び出しを生かす戦法を取った」(南監督)。新里大地と池田拓生の2トップ、左MFの小田悠太、右MFの福島孝男がフレキシブルに動く中、加藤はその間隙(かんげき)を突いて、何度も前線に顔を出した。その動きの質は非常に高く、チームの攻撃にアクセントを加えていた。

「攻撃がやり切れるポジションで、やりやすかった」。1.5列目からスペースを見つけて、飛び出していけば、すぐ目の前にはゴールがある。この環境に、加藤の眠っていた得点センスが一気に呼び覚まされた。初戦の草津東戦(4−2)では、1−1で迎えた後半5分に、カウンターからドリブルで抜け出すと、左足インフロントで技ありのコントロールシュートをゴール左隅に決める。このゴールを皮切りに、2回戦の伊勢崎商戦で2ゴール(4−0)、3回戦の香川西戦で1ゴール(2−0)をたたき出した。

 2−3で敗れた準々決勝の市立船橋戦ではノーゴールだったが、4試合で4ゴールの活躍。徳永の穴を埋めるに十分な活躍で、ベスト8進出の立役者となった。
「ワンツーなどを使っての追い越す動きを心掛けるようになりました。相手のギャップに対して、自分がタイミングをずらして入るのか、味方に預けてから入るのか、バリエーションを考えながらプレーするようになった。課題である囲まれたときの判断の質を意識しています」

「こんなに点が取れるとは思っていなかった」

セットプレーからもゴールを決めるなど、得点パターンを豊富に持っている 【松岡健三郎】

 この経験が加藤を大きく変えた。「サイドから中に入るときに、身体の向きを意識して、ボール(の動き)を止めないことを心掛けている」。徳永が復帰し、本来のポジションに戻っても、加藤はそれまでのチャンスメーカー的な役割から積極果敢にゴールに迫って、シュートを放つプレーが格段に増えた。

 そして本大会、初戦から右サイドの“ストライカー加藤”はエンジン全開だった。帝京可児を相手に、チーム全得点となる2ゴールをたたき出して初戦突破(2−1)を果たすと、続く2回戦の野洲戦では、こちらもチーム全得点となる圧巻のハットトリック(3−2)。3回戦の新潟西戦では1ゴール(5−1)、準々決勝の西武台戦では、先制弾をたたき込んでいる(2−2からPK戦で勝利)。

 4試合連続の計7ゴールで、現在得点ランキング首位を走る。ゴールもクロス、セットプレー、スルーパスやドリブルからのシュートとバリエーションが豊富だ。これは「自分がゴールまで行くイメージを持てている」からこそであった。

 これまで、彼のシュートがうまくなかったのは、そこまでシュートへの意識が強くなかったから。それがシュートへの意識が強烈なものとなって、彼を支配したとき、彼のストライカーとしての本能が覚醒した。「こんなに点が取れるとは思っていなかった」。本人はこう言うが、冒頭でも書いたように、これは突然変異でも偶発的なものでもない。しっかりとした伏線があったからこその爆発であった。次なる舞台はいよいよ高校サッカーの聖地・国立競技場。彼の頭の中には、すでに国立のゴールネットを揺らすイメージは出来上がっているはずだ。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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