梅鉢貴秀、悔しさを胸に鹿島での挑戦へ=2年連続のPK失敗、今年は出なかった涙

安藤隆人

自分の力を発揮できなかった悔しさ

関大一の選手権は準々決勝で終わりを告げた。梅鉢(左奥)はこの悔しさを胸に新たなるステージへ挑む 【写真は共同】

 だが、ここまでだった。久御山との準々決勝では、立ち上がりから動きが重かった。久御山のリズミカルなパスサッカーの前に翻ろうされると、彼の代名詞でもある両足のキックも精度を欠き、サイドチェンジがそのままタッチラインを割ったり、ずれたりとらしくなかった。
「中盤でためが作れないし、つなぐ意識が全体的に足りなかった。相手のボランチにうまくつながれて、振り回されてしまった」

 リズムをつかむことができないまま、苦しい時間だけが過ぎていく。それでも試合は、関大一の持ち前の粘りが生きて、1−1からPK戦までもつれ込んだ。国立を目の前にしたPK戦。1人ずつ外して迎えた先攻・関大一の5人目のキッカーは梅鉢。彼が放ったキックは、昨年同様に相手GKの手に吸い込まれていった。
 久御山5人目のキッカーが決め、関大一の敗退が決まった瞬間、ピッチにうずくまるチームメートの中で、梅鉢は気丈に立って仲間に整列を促した。スタンドにあいさつを済ませ、ベンチに戻ってくるまでの彼の表情は一切変わることがなく、目にも涙はなかった。

「ここで外せば、厳しくなることは分かっていた。最後に蹴る選手は大きなプレッシャーが掛かるので、自分しかできないと思っていたので、自ら申し出ました。決めて国立に行きたかった。1年前と同じ状況で同じ失敗をしてしまうのは、成長できていないことだと思う。成長した姿を見せたかったのに、自分が情けない」
 試合後、彼はこう語った。その目には涙はなく、試合終了後からの厳しい表情は崩れなかった。昨年はPKを外したことで、先輩たちの高校サッカーを終わらせてしまったことに泣いた。しかし、今年はPKを外したことはもちろん、それ以上に80分の中で自分の力を発揮できなかったことが悔しかった。

 リベンジを誓った前回の選手権、キャプテンの重責を与えられ、インターハイ予選での悪夢、そしてプロ内定、苦しかった夏合宿、そして予選決勝での負傷と優勝、そして選手権でのPK負け……
 梅鉢のこの1年間は浮き沈みが激しく、中身も非常に濃いものであった。それにもかかわらず、最後の大会は到底満足がいかない出来のままに終わってしまった。大号泣した昨年と、涙を見せることなく厳しい表情を崩さなかった今年。同じ悔しさでも、その内容はまったく違っていた。納得のいかないまま、彼の高校サッカーは幕を閉じた。責任感が強く、常に自分に対して厳しい彼だからこそ、最後は涙が出なかった。

「次のステージでやり切るだけです」
 この悔しさはプロで返す。彼の表情には強い決意がにじみ出ていた。成長した姿はプロで見せる――。梅鉢の新たな挑戦が今、始まった。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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