選手権は通過点、滝川第二の高い志=<準々決勝 日章学園(宮崎) 0−3 滝川第二(兵庫)>

小澤一郎

驚くべきは滝川第二が持つ競争力の高さ

3回戦では強豪・静岡学園を退けた日章学園だが、滝川第二の前に0−3で屈した 【鷹羽康博】

 今大会の本命と目されていた静岡学園を破りベスト8入りを果たした日章学園が青森山田(青森)を快勝とも呼べる内容で下した滝川第二にどう挑むかが注目されたニッパツ三ツ沢球技場での準々決勝第2試合。開始直後こそ日章学園がペースを握るも、3試合で12得点という破壊力を誇る滝川第二が、流れなどお構いなしと言わんばかりにMF本城信晴のミドルシュートで8分に先制した。それ以降は、滝川第二が落ち着いたサッカーで日章学園自慢のパスワークを封印。27分に左サイドからのクロスに“ダブルブルドーザー”の一角、樋口寛規が頭で合わせて追加点を奪った。

 試合展開としては、これで勝負あり。2点ビハインドで後半を迎えた日章学園の早稲田一男監督は、後半スタートから2枚の交代カードを切り反撃を狙うも、滝川第二の安定感ある守備陣に攻撃の起点となるべき縦パスをことごとくインターセプトされてしまい策が尽きた。日章学園の後半のシュート数は2本にとどまり、後半7分のMF早稲田進平の直接FK以外に見せ場はなかった。

 後半31分に滝川第二は、DF土師直大のロングスローからFW浜口孝太が決めてダメ押しとなる3点目を決める。終盤は、準決勝をにらんで2トップをベンチに下げる余裕を見せた滝川第二が7大会ぶり4度目となる準決勝進出を決めた。危なげない戦いぶりで快勝したとはいえ、栫裕保監督は「静学よりも強い相手ということで締めて戦いました。相手の方が支配率が高く、細かい技もうまかった。たまたまうちがいい時間帯で(点を)取れたのでこういう結果になりましたけれど、五分五分までもいかなかった」といつも通りの謙遜なコメントを残した。

 この試合の滝川第二だが、今大会初めて前の試合と同じスタメンをリピートしてきた。その理由を「ケガ人も多くて変えることができなかったというのもあるが、この前の流れを続けたかったから」と説明した指揮官だが、選手権のようなトーナメント方式の大会で試合ごとにスタメンを入れ替えてきたことについては、3回戦の青森山田戦後にこう語っている。
「チェンジしてもそんなに(チーム力が)落ちることはありません。(ベンチにいる選手が)サブというつもりはなくて、うちは誰が出ても遜色(そんしょく)ないレベル。全体のレベルは底上げできているかなと思っていますし、できれば(ベンチ入りする)全員を出したいという個人的な思いもあります」

 樋口、浜口の2トップや谷口智紀と香川勇気のダブルボランチなど、代えのきかない選手がいるのは事実だが、滝川第二の強さを語る上で選手層の厚さは外せない要素のひとつだ。勝ち上がるためには短期間で連戦をこなしていく必要がある選手権とはいえ、今回の滝川第二のようなターンオーバー制が主流になることは考え難い。ただ、敵将の早稲田監督が「やるサッカーがすごく明確でした」と脱帽したような明確なプレーモデルと育成コンセプトがあれば、選手層を厚くして総合力で勝ち抜く手法も使える。大会登録25名の中に1年生がゼロというチーム構成からも、滝川第二が持つ競争力の高さは見てとれる。

「これ(選手権)はあくまで通過点だと思います」

今大会の滝川第二は選手たちの志の高さが抜きん出ている印象を受ける 【鷹羽康博】

 そういう面からみた時、滝川第二は「強豪校」としてのみならず、強豪クラブの下部組織のような「育成機関」としての存在感も醸し出している。例えば、この試合だけでなく今大会の滝川第二のキーマンとして大車輪の活躍を見せているボランチの香川。彼は、元々はドリブラーだ。「中学の時はドリブル中心のチームでやっていました。それが、滝二に入って180度変わりました」と語る。実際、昨年度のチームで香川はボランチではなくサイドハーフとして使われている。その彼を変えたのが、滝川第二のハイレベルなサッカーと選手たちだ。「2年前の選手権やチームを見て、ドリブルもパスもすべてできないといけないと思うようになりました。上のレベルでやろうと思えばドリブルばかりではなく広い視野、判断力、基礎技術が大切です。この1年はボランチでプレーしていることもあって広い視野を持って常に遠くを見てスルーパスを狙うようなプレーを意識していますし、それができるようになってきました」と自身の成長を分析する。

「トーナメントなんで、普段やっていることが何回できているかというと低いレベルなんだと思います。3人目、4人目が動けていない」とチームに対して手厳しい栫監督のみならず、香川も「まだ物足りません。奪った後に今日はクリアする場面が結構多くて、あそこをサイドに付けてゆっくりでもいいのでビルドアップしていかないと。それができれば滝二らしいサッカーができると思います」と飽くなき向上心を持つ。目先の結果で一喜一憂することなく、常に高みを目指して滝二サッカーを展開する今大会の滝川第二は、志の高さがほかのチームと比較した時に抜き出ている印象を受ける。

「技術には自信があるので選手権という舞台でも全く緊張しない」と語る香川は、夢の国立を決めた直後に「これ(選手権)はあくまで通過点だと思います」と言ってのけた。
「次も今まで通りやるだけです。自分の中で課題を見つけてしっかりと。勝負事なので勝つことが優先されるのですが、自分的にはやって楽しいサッカーを、納得のいくサッカーをやりたいと思っています」
 選手権はあくまで通過点。当たり前のようで当たり前には出てこなかったこの言葉を選手自身から聞いて、時代の移り変わりとともに健全化されつつある高校サッカー界の現状を確認できた気がする。

<了>
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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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