「12番目の選手たち」が到達した国立=<準々決勝 西武台(埼玉) 2(4PK5)2 立正大淞南(島根)>

平野貴也

山陰地方きってのアイデアマン南健司監督

島根県勢初の4強入りを果たした立正大淞南。南監督に率いられた選手たちは国立まで上り詰めた 【たかすつとむ】

 国立進出を懸けた大一番、立正大淞南が執念を見せる西武台を振り切り、島根県勢初の4強入りを果たした。二度も追いつかれた。後半終了間際にGKのキックミスからカウンターを食らい、アディショナルタイムにまさかの失点。前日に練習したというPK戦でも決めれば勝利という場面でシュートミスが出るなど、最後までドタバタだった。勝敗が決まったのは、サドンデスに突入して7人目。相手のキックを止めた後、DF竹内洸が勢いよく最後のキックをたたき込み、応援団の待つバックスタンドへ飛んで行った。歓喜に沸くピッチから下りた指揮官は、ミックスゾーンと呼ばれる取材エリアへ誘導されたが、「その前に1本吸うて来ます」と関西弁で身をかわして喫煙所へ向かい、ようやくギリギリの攻防から解き放たれて一息ついた。

「数年前なら島根県勢が国立のピッチに立つことは考えられなかったし、僕自身にとっても夢ではあったけど、正直、目標にはなっていなかった。でも、今年はある程度、力がついてきていたので、今年は(全国で)上に行くよと7月から言っていた。それがかなって良かった。あっ、勝ったらすごいメールと電話が来るんですね。さっきからずーっとですよ。うれしいですね」
 せわしなく震える携帯電話を手に、立正大淞南の南健司監督は喜びを語った。

 試合を見るだけでも風変わりな光景をいくつも目にするチームだ。試合直前の円陣は組まず、バックスタンドの応援団と向かい合って全員で手をつないで気持ちを一つにする。攻撃は、執拗(しつよう)なまでのドリブル勝負。セットプレーとなればサイン攻撃を繰り出す。ハーフタイムの指示は少なく(指揮官はピッチに残っていた)、マッサージに時間を割く。試合終盤は、後半を丸々やり切ったこともあるというボールキープによる長い時間稼ぎ。PK戦前には、指や手を目の前にかざして動体視力の訓練運動。PKのキックでは、GKのタイミングと合わないようにするため、長い間合いからシュートを打つ。どれも山陰きってのアイデアマンによる工夫だ。常々、対戦相手から「厄介な相手」と評される理由がここにある。しかし、山陰地方は、高校サッカーにおける発展途上地域のため、選手に恵まれる機会は多くない。今年は指揮官も「安定した技術のある子が11〜13人ぐらいいる」と認める当たり年となったわけだが、そこに至るまでにはスカウト活動での工夫も伏線となっている。

中学時代は主力でなかった選手が国立に立つ

現在7ゴールで得点ランキングトップの加藤(右)も中学時代は「バツを出された子」だったという 【たかすつとむ】

 少し風変わりなサッカーを体現する彼らは、どこから来るのか。南監督は、自身もスカウトにあたって声をかけた選手たちを「12番目の選手たち」と表現した。
「2トップの新里(大地)や池田(拓生)たちは、中学時代はいわゆる『12番目の選手』で、どこからも誘われることがなかった。でも、僕は良いと思ったので声をかけました。(中学時代に所属チームで主力級でなく)12番目だった選手が国立に立つことはうれしいし、やってきたことは間違っていなかったんだと思える。僕は自分がすごく下手で……それは書かなくていいんですけど(笑)、ボールをコントロールする能力が(選手や試合の)発展につながるし、僕が発展できなかったのもそれが原因だと思っている。だから、世の中で『ボールを持ち過ぎる』とか『顔が上がらない(視野が狭い)』と高く評価されないような子でもOK」

 見事なアシストで先制点を演出したFW池田は「中学時代は大阪のセントラルというチームでやっていたけど、中心選手ではなかった。でも、立正大淞南ではそういう選手でも活躍している人がたくさんいると聞いたので(進路として)選んだ」と証言した。今大会7ゴールで得点ランキングの首位を走るシンデレラボーイ、MF加藤大樹も「ドリブルしかできないから(よそでは)バツを出された子だった」(南監督)掘り出し物だという。

「僕は、大学を卒業してすぐに今の学校へ来た。何も(実績の)なかった自分に選手を送ってくれた先生たちが、今日は見に来てくれていた。3種(中学生年代)の指導者の方たちに感謝したいし、この場面を見せられてうれしかった。ちょっとだけの恩返しだけど、少しはできたかな」(南監督)

 12番目の選手たちは、全国の4番目までに残り、1番目まで上り詰める挑戦権をまだ手にしている。国立という大舞台で、恩返しは続く。準決勝の滝川第二戦について「練習試合では(ゴールを量産している樋口寛規、浜口孝太の)2トップとボランチの谷口(智紀)君がいないチームに大敗している」と指揮官は頭をかくが、このチーム、すんなり終わるとは思えない。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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