柏木陽介、悲願だった代表復帰

元川悦子

遠藤相手のレギュラー争いは長期戦を覚悟

柏木にとって2011年は、代表でのレギュラー定着を目指す1年となる 【写真:澤田仁典/アフロ】

 あれから1年が過ぎ、ザッケローニ監督就任後の日本代表は世代交代が急激に進んでいる。アジアカップのメンバーも南アに比べると3歳も若返った。だからこそ、柏木は「ここで残れなかったら、2014年のW杯・ブラジル大会の出場はない」というくらいの強い自覚を持っているはずだ。

 監督は年末の大阪合宿で、従来の4−2−3−1と3−4−3の新布陣にトライした。柏木は細貝萌(アウクスブルク)と並んで常にボランチに入っていた。細貝が同タイプの長谷部誠(ボルフスブルク)の控えだとすれば、柏木は当然、遠藤保仁(G大阪)のバックアップ役に位置付けられる。攻撃の起点としてチームにスイッチを入れる重要な仕事を託されるのだ。

「今は新しいチームの約束事に慣れるのに精いっぱい。ヤットさん(遠藤)のことも意識していない。ボランチで使われるなら、もっとボールを多く触って、中で取られないようにしないと。前に真司や松井さん(大輔=グルノーブル)がいる場合には、思い切りタテパスを狙って得点チャンスを作りたいし、もっと広く展開できるように心掛けたい。このチームは守備も大事だし、一生懸命やらないとね。このチームのボランチはあんまり前に上がらないみたいやから、自分のゴールはちょっと様子見かな」
 こう話す柏木は、数日間の合宿で自身の役割を少しずつ理解しつつある。

 遠藤、長谷部というW杯・南アフリカ大会ベスト16の立役者たちがボランチに君臨している現状だけに、アジアカップ本番での出番はそう多くないだろう。柏木も厳しい現実をよく理解している。イエメンに行った1年前も「岡田さんが『ウサギとカメ』の話をしてくれたように、自分のやるべきことを続けていたら、ヤットさんみたいにいつかどこかで花開くかもしれない」と忍耐の重要性を口にしていた。それを実践し、30歳近くなって大ブレークした遠藤のポジションに挑むのだから、長期戦を覚悟しなければならないのは間違いない。

アジアの大舞台で再び輝きを

 とはいえ、アジアカップのような大舞台では何が起きるか分からない。W杯・南アフリカ大会でも、直前まで控えが濃厚だった阿部勇樹、駒野友一(磐田)らが突如、先発起用されるサプライズが起きた。遠藤も天皇杯準決勝まで休みなく戦い続けており(準決勝は累積警告により出場停止)、コンディション的にはかなり厳しいものがある。彼を休ませながら後釜を育てたいという思いは、ザッケローニ監督の中にもあるだろう。

 実際、今の20歳前後の世代を見ると、運動量豊富で速くて点が取れる香川のようなウイングタイプは選び放題だが、中盤でボールをキープし緩急をつけながらゲームを作れる遠藤、中村憲剛のようなパサータイプはかなり人材が不足している。Jリーグをくまなく視察しているイタリア人指揮官は、この問題点をよく理解しているだろう。それだけに、どこかで柏木を使って経験を積ませる可能性は少なくない。
 大きな国際大会は勝ち進むにつれて出場停止や負傷も起こり得る。チームというのは生き物。新戦力の背番号16にもきっとチャンスは訪れる。それをモノにするか否かで、今後の代表人生が大きく変わってくるのだ。

「ザックジャパンは結構、規則が厳しくていろいろ大変。それをしっかり覚えることが今は一番だと思う。その上で何をするかが今後の課題。監督の言っていることを常に意識して、吸収していきたい。アジアカップも正直、試合に出たい。もし出番がなかったとしても、チームの勝利に貢献することが大事。自分にできることを最大限やっていきたい」と彼は献身的な姿勢を忘れない。

 2011年はうさぎ年である。「今年は年男。いい年にしたい」と笑顔でコメントした柏木は、久しぶりのアジアの大舞台でうさぎのようにピッチを躍動できるのか。圧倒的なテクニックと運動量、存在感で見る者を魅了した2006年のAFC・U−19選手権の再現をぜひとも見せてほしいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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