誤算が招いた明暗――2強決戦の舞台裏=箱根駅伝

折山淑美

駅伝の鉄則を破った早大、守れなかった東洋大

早大・猪俣(左)は5区で、東洋大の“新・山の神”柏原にトップの座を譲るも、その差を27秒に抑えた 【Photo:日本スポーツプレス協会代表撮影/アフロスポーツ】

「往路が終わって(東洋大と)27秒差だったけど、東洋大の復路が良いという話と良くないという話の両方ささやかれていたから、優勝への自信は半々でした。だから、高野が湯本からつけてくれた36秒差は大きかったですね」

 こう話す渡辺監督は、7区の三田にも絶妙の走りをさせた。
「(7区を走る)東洋大の大津翔は状態が良くないと聞いていたし、三田は最初から突っ込ませないと彼の良い面が出ないから」と、駅伝でトップを走る鉄則である“ゆっくり入って後半上げる”という走りを無視して3キロを8分36秒で突っ込ませた。

 それに対して東洋大・酒井監督は、大津翔の状態を考えて、追う者の鉄則である“攻めの走り”をさせられず、入りの3キロは9分07秒。この時点で1分以上の差がついてしまい、大勢が決まってしまった。
「東洋大の復路を走る選手の力はあなどれないから、追いつかれたら絶対に負けると思っていた」という早大・渡辺監督は、各区間とも細かい指示を出して、その差が縮まるのを最小限に抑えた。対して東洋大は、8、9、10区で区間賞を獲りながらも、もうひとつ爆発的な走りをすることができず、10区では一時20秒を切る差まで追い詰めたものの、早大の逃げきりを許してしまった。

 早大アンカーの中島は「怖かった」と言い、渡辺監督も「さすがの東洋大。簡単には勝たせてもらえなかった。10区の20キロ通過で10秒以上の差があれば勝てると思っていたから、そこでやっと勝利を確信した」と笑顔を見せた。

4年生の走りが勝負の分かれ目 早大の勝利は決戦への序章

 終わってみれば、気象条件に恵まれた往路では2位の早大まで往路新記録で、総合タイムも早大が新コースで初めて11時間を切る10時間59分51秒での優勝。ますますのスピード化を印象づける結果だった。

 早大と東洋大の21秒差の壮烈な戦い。その差はともに120パーセントの力を出した早大の猪俣と高野、80〜100パーセントしか出せなかった東洋大の大津翔と千葉という4年生のパフォーマンスの差だったとも言える。
 早大・渡辺監督はその勝因を、「駅伝はチーム力の戦い。アクシデントで4年生中心のチームになったのが逆に良かった」と言う。

 来年は矢沢、三田、八木勇樹というスピードランナーたちが4年生になる早大に対し、東洋大も柏原と田中貴章を含め、今回走った10人のうちの5人が4年生になる。
 その時の戦いこそ本当の意味での総力戦となるだろう。もしかすると今回の戦いは、早大と東洋大の最大の決戦へ向けた、序章だったのかもしれない。

<了>

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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