関大一の武器は経験、“強者の風格”漂わす=<3回戦 尚志(福島) 0−1 関西大学第一(大阪)>

鈴木潤

「去年よりチーム力は劣る」

関大一は尚志の長所を消し、豊富な運動量で押し込んだが、なかなか得点は奪えなかった 【岩本勝暁】

「まぐれが2年続いているだけです」
 関西大学第一・佐野友章監督は、前回と変わらぬ“佐野節”で報道陣の笑いを誘うと、「スカッと勝ち切れないのが今年のチームの特徴」と付け加えた。さらに佐野監督は昨年度のチームとの比較について報道陣から問われると、「去年よりチーム力は劣る」と辛口の評価を下した。

 だが、この3回戦の勝ち方を目の当たりにして、昨年以上の強さを感じたのは筆者だけだろうか。3回戦で対戦した尚志は、平野伊吹、湯浅秀紀、渡部圭祐、川辺祥太といった攻撃陣に好選手をそろえ、ディフェンスラインから丁寧にビルドアップをしながら、ダイレクトパス、サイドチェンジ、ドリブル突破などを織り交ぜる多彩な攻撃サッカーが持ち味のチームだ。「尚志は『強い』という意識を持っていた。うちが一番怖がっていたサッカーをされた」と佐野監督が話した通り、前半25分には複数のパス交換からサイドへ展開され、最後はクロスボールに鈴木拓磨がニアで合わせる、あわや失点という場面を作られた。

「尚志の勢いに押されて、なかなかシュートまで行けなかった。特に前半の内容が悪かった」(梅鉢貴秀)。かたくなに最終ラインからパスをつないでいく尚志のストロングポイントを、関大一は寄せの早さである程度消していたが、それでもゲーム全体の流れという点では、やはり尚志の方に傾いていたのかもしれない。

 後半立ち上がりには浅井哲平が自ら得たPKを外し、「外して下を向いてしまった」(浅井)と、関大一に嫌な空気が漂い始めた。シュート数で見れば尚志の7本に対し、関大一は倍の14本。後半途中からは運動量に勝る関大一がセカンドボールをほとんど支配し、グイグイと尚志を押し込むのだが、得点を奪えない。尚志の持ち味こそ封じていたものの、梅鉢が硬い表情で「もう少し厚みのある攻撃をしたかった」と悔恨の念を示したのだから、選手たちが試合内容を「悪い」と評価したのも納得できる。

何ものにも代え難い「経験」

関大一の決勝点は後半ロスタイム。内容が悪くとも最後に勝ち切る勝負強さを見せた 【岩本勝暁】

 だが、おそらく関大一の選手たちは、この1年間、こういう試合を数多くこなしてきたのではないだろうか。いくら佐野監督が「うちは技術がないので走らないと勝てない」「まぐれが続いているだけ」と述べたところで、彼らには昨年度選手権ベスト4という揺るぎない肩書がある。つまり、自分たちのスタンスは変わらずとも周囲の見方が変わり、ノーマークだった昨年とは対戦相手の目の色が大幅に異なっていたはず。今年はあらゆるチームから警戒され、そして研究されてきたことは容易に想像できる。

 そういう状況にもかかわらず、春先に開幕した大阪府リーグで優勝を成し遂げ、来季からのプリンスリーグ関西への昇格を果たし、選手権予選においても、準々決勝以降は1点差勝利、もしくはPK戦という拮抗(きっこう)した勝負を制して再び全国の舞台へと帰ってきたのである。

 そして、この選手権3回戦でも、誰もが「PK戦に突入か」と思った後半ロスタイムの41分、PKを失敗した浅井が、井村一貴とのワンツーから抜け出し、土壇場で決勝ゴールを決めた。Jリーグでは鹿島アントラーズ、海外ではマンチェスター・ユナイテッドといった強豪クラブが、内容が悪くとも最後の最後に勝ち切ってしまうように、関大一も大苦戦を強いられた試合で、強者の風格を見せつける形で押し切った。

 佐野監督は「去年のチームに勝っているところがあるとすれば、『経験』です」と述べた。梅鉢もまた、「去年、全国でベスト4になって、高いレベルを経験して、普段から締まった練習ができている」と話している。ひょっとしたら佐野監督の言う通り、タレントがそろっていた昨年と比べ、純粋なチーム力という点では今年のチームは劣っているのかもしれない。

 しかし、彼らには何ものにも代え難い「経験」という武器がある。昨年度のベスト4という経験だけでなく、常にライバルたちの厳重な包囲網に遭い、それを突破してきたこの1年間の経験が、さらに一段と逞しい成長を促したのではないだろうか。今の関大一からは、内容が悪くても最後の最後で勝ち切ってしまう、“強者の風格”を感じる。

<了>
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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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