久御山、弱者の戦術は魅惑のパスサッカー=<3回戦 那覇西(沖縄) 1−4 久御山(京都)>

中田徹

後半、本来のパスサッカーで久御山が那覇西を圧倒

久御山はノーマークの存在から、あれよあれよという間に8強まで上り詰めた 【鷹羽康博】

 1回戦、中京大中京のエース宮市亮のスケールの大きさに圧倒され、前半だけで1ゴール1アシストを許してしまった久御山だったが、魅惑のパスサッカーで後半立ち直り、終わってみれば4−2で快勝していた。等々力陸上競技場で座間との2回戦を2−1で勝ち抜き、久御山は3回戦で再びニッパツ三ツ沢球技場へ戻り那覇西と対戦。立ち上がり7分、足立拓眞の鮮やかなヘディングシュートで先制したまでは良かったが、前半は不必要なボールロストが目立ち、「これが中京大中京を破った久御山か」と思わせるぐらい低調な内容だった。

「3戦目の疲れがあった。昔から連戦には弱い。全国大会では必要以上に力が入ったり、走る距離が増えたりして、今日は重いなという感じがあった。『後半の立ち上がり15分、20分は足がつってもいいから、動いてボールを受けて、という自分たちのサッカーをしっかりやろう。思い切りやらないと次はないよ』という指示を出した」(松本悟監督)

 後半に入って調子を取り戻した久御山は3点を追加。失点をロスタイムの1点に抑え、4−1で完勝してベスト8進出を決めた。試合の分岐点となったのが48分、左サイドバックの山田修市のゴールだった。
「あの2点目は鳥肌が立つぐらい感動しました。そこからうち本来の良さが出た。点を決めた山田にはハーフタイムに思いっきりハッパをかけました。怒る口調で『何をやってんだ。そんなんでいいのか』と。だから、わたしを救ってくれた1点だった。あれが入っておらず負けたら、ケチョンケチョンにけなして台なしにしたおれの責任だなと思っていた」

 こうして久御山は本来のショートパス戦術が機能し始め、那覇西に差をつけたのだった。
「(ロングボールでの)早い攻撃=早く相手にボールを渡してしまうことになる。今日はバックラインで3つ4つとつながるようになって、初めて前に行けた。相手に『つながれるな』という意識を植え付けたい。また、ボールを持つことによって(相手に攻撃をさせないという)一番高尚な守備につながるので、ボールを大事にしようということを中学の指導者時代からやっていた。うちには特別足が速いとか身体能力の高い選手が毎年いるわけじゃないので、能力の高い相手とやった時はボールを回せるかどうか。わたしもボールを持っていないより持っている方が好き。親父の道楽に高校生を付き合わせているような感じなんですけど、みんな3年間でボール回しをうまくなって卒業してくれたら、彼らが親になったり指導者になったりした時にボール扱いのうまい少年たちが出てくる。ボールを“持てる”方が、女の子にも“モテる”んじゃないかな(笑)」

「オオカミみたいなもので群れているから強い」

突出した選手はいないが、足元の技術を重視するチームだ 【鷹羽康博】

 決して身体能力に長けた選手はいないが、技術に加えて友情パワーによってチームは強くなっている。 
「ひとりひとりは強くないが、オオカミみたいなもので群れているから強い。お互いを助け合って全体が強くなっている。今でも個人をうまくすることをやっているんですけど、勝ちたい、いいサッカーをしたい、僕たちを見てもらいたいという思いが和になっている」

 個人技に秀でたサッカーをする久御山だが、下手な子も入部歓迎だという。
「『12番目のサポーター』である原田というのはいつもゲーム前にみんなを笑わせてくれる。そいつなんか『えー、こんなやつ、どうするの〜!?』って感じだったんですが、今やボール回しではとってもうまい。サッカーが好きだから付いていけるみたいな。1年生なんかボール回しをされていじめられて泣くこともある。過去にそんなやつはいっぱいいる。『下手くそ』とか『帰れ』とか言われながら伸びていく。それは愛情のある怒り方ですけどね」

 今年の高校サッカーは面白いとよく言われるが、久御山のような攻撃サッカー志向のチームが多いのもその理由だろう。松本監督はこう分析する。
「高校サッカーが面白くなったと思います。トップチームは攻撃が抜群にうまいですし、昨日対戦した座間さんはプレスからボールを奪ったらすぐに相手を崩しているように、攻撃的に守っている。と思えば引いてワンパンチを狙っている中京大中京は、カウンターに見合う選手(宮市亮)がいる」

 実は中京大中京戦の前半が終わった時、1−2で負けているにもかかわらず、久御山の選手たちは笑顔いっぱいだった。「あまりに宮市くんのプレーが異次元だったもので」(松本監督)と笑うしかないぐらいの衝撃を受けていた。それでも久御山はつなぐサッカーを徹底させ、逆転勝利を収めたのは冒頭記した通り。技術という裏付けが久御山に自信をもたらしている。それでも準々決勝の抱負は控えめだ。
「準々決勝は最高のゲームをしたい。それだけです。大差で負けても久御山らしい元気なサッカーをしたい。関大一はあのパワフルなのが怖い。“群れ”になって頑張ります」

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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