西武台、多彩な攻撃を可能にするストライカーの存在=<3回戦 作陽(岡山) 0−2 西武台(埼玉)>

鈴木潤

チームのテイストが例年とは異なる理由

屈強なフィジカルと足元のうまさを兼ね備えた清水(右)の存在が、西武台の攻撃に新たなバリエーションをもたらした 【岩本勝暁】

「西武台」と聞くと、かたくなにボールをつなぐ多彩な攻撃サッカーのイメージがある。それは、日常のトレーニングから個々のアイデアを生かし、狭いスペースでのパス回しを中心に行っているということもあるが、昨年度のチームが三浦大輝(現流通経済大)のようなテクニカルなタレントをそろえ、彼らの織り成すイマジネーションに富んだパスサッカーが非常に鮮烈なイメージとして脳裏に焼き付いているからだった。

 ただし今年のチームのテイストは、例年とは若干異なる。もちろん、西武台の持つコンセプトが根底にあるため、つなげるところは丁寧につないでいくのだが、それ以上にディフェンスラインから放たれる前線へのフィード、あるいはサイドハーフはもとより、サイドバックまでもが低い位置からアーリークロスを上げる場面が目立つ。

 その最大の要因は、FW清水慎太郎の存在にある。清水は大宮アルディージャへの入団が内定しており、身長176センチと上背は決して高くはないが、優れた身体能力と抜群のフィジカルを誇り、相手DFとのボディーコンタクトでもほとんど競り負けない規格外のストライカーである。キャプテンの松本和樹は清水をこう評する。
「清水はフィジカルが強くてボールをキープできる。ちょっとルーズなボールでも何とかしてくれる」

 作陽戦で清水が挙げた先制弾は、まさにこの形がピタリとはまったものだった。前半22分、右サイドバック澤本玲がゴール前にクロスを送る。清水が「裏を狙っていたけど、足元に来た」と振り返ったように、このクロスは出し手と受け手のイメージが合致していなかったのだが、清水はDFを引き連れて走りながら後ろ向きでトラップすると、その勢いのままクルリと反転し、前にボールを落とすとともに右足のシュートで鮮やかなゴールを決めたのである。

「あれは僕の得意な形でした」と清水は笑みを見せたが、並のFWでは反転の際にボディーバランスを崩すか、トラップした途端に相手DFに囲まれてなすすべを失うだろう。そうそうできるプレーではない。

「戦術は清水」のチームではない

応援してくれた仲間に祝福される清水(14番)。狙うは埼玉県勢29年ぶりとなる優勝だ 【岩本勝暁】

 また、前半28分のプレーも圧巻だった。後方からのフィードに対して、走りながら右足アウトサイドでトラップし、巧みに足元に落とした後は豪快に右足を振り抜いた。もちろんDFを引き連れながらである。このシュート場面は先制点と同等のインパクトがあったが、惜しくもバーをたたいた。得点には至らなかったが、清水の高い能力を物語るには十分すぎるプレーだった。

 さらに後半21分の追加点の場面。清水は「阿部(祐希)のクロスが良かったから合わせるだけだった」と謙遜(けんそん)気味に語ったものの、猛然とスペースへ飛び込み、頭で合わせてネットに突き刺したゴールからも、彼の持つパワーを感じさせた。こうした、清水という“武器”を生かすために、後方からのフィードや外からのクロスが増えるのは、当然の戦い方なのではないだろうか。

 ただ、西武台は1本のロングフィードだけに頼る「戦術は清水」のチームではないことだけは強調しておきたい。西武台本来の「つなぐ」というコンセプトもしっかり踏襲されており、長いボールとつなぎのメリハリを効かせている。清水は一発のフィードに対応するプレーだけでなく、ポストプレーにも長けているため、本来の西武台のコンセプトで戦う場合にも屈強なフィジカルと足元のうまさでくさびのパスを懐へ入れ、局面でパスサッカーを展開する際にも多大なアクセントを与えることができる。

 選手たちはうまく、繰り出す攻撃は多彩だが、どこか脆さもあったかつての西武台とは異なり、今年のチームには清水というスーパーストライカーがいることによって、今までになかった戦い方とパワフルさが備わっている。埼玉県勢10年ぶりのベスト8だが、この成績に甘んじるチームではない。彼らが狙うは、第60回大会の武南以来、29年ぶりとなる埼玉県勢の戴冠である。

<了>
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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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